出典: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO65779200S0A101C2EA2000/
温暖化ガス 50年ゼロへの道
(1) 水素、脱炭素の主軸に 大量導入、費用削減のカギ
- 2020/11/3付
- 1211文字
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来年初めに豪州から水素を輸入する(川崎重工業の運搬船)=同社提供
2050年に温暖化ガスの排出量を実質ゼロにすると表明した日本。意欲的な目標は産業や社会構造の大転換を迫る。実現に欠かせない新技術の課題と将来性を探る。
「水素が脱炭素化に不可欠なエネルギーであるとの共通認識が世界で形成されてきた」。10月中旬、日本が主導する水素閣僚会議で梶山弘志経済産業相はそう強調した。
政府が「50年排出ゼロ」を打ち出し、水素への関心がにわかに高まっている。燃やしても二酸化炭素(CO2)を出さず、水を電気分解すれば無限に作れる。効率の高いエネルギーを生み、燃料電池の普及を促すとの見方もある。
福島県では今年3月、世界最大級の水素エネルギー製造拠点が稼働した。水を分解するための電力も太陽光発電設備でつくるクリーンなシステムで、1日に燃料電池車(FCV)560台分の水素を製造できる。
水素はこれまで高いコストが利活用を阻んできた。政府は30年ごろに年30万トンを輸入し、調達コストを1N立方メートル(ノルマルリューベ=標準状態での気体の体積)あたり30円にする目標を立てるが、現状はその3~5倍。同13円程度の液化天然ガス(LNG)に比べ7~12倍の開きがある。
ただ政府が目の色を変え、企業のスタンスも一段と前向きになっている。
川崎重工業は褐炭に狙いを定める。水分が多くて燃えにくいのが難点だが、価格は石炭の10分の1。この褐炭から水素を取り出せば、コスト問題のひとつの回答になる。政府も同社が製造した世界初の専用船を使い、オーストラリアから日本に褐炭由来の水素を運ぶ計画を進める。
大量の水素を消費できる仕組みを作れれば、コストも下げられる。三菱重工業が急ぐのは火力発電所の低炭素化。大型タービンの燃焼器(バーナー)を水素用に取り換え、18年には70万キロワット級の火力発電設備で水素を30%混ぜた「混合燃焼」に成功した。25年には既存の火力発電所を水素100%発電に切り替える計画を練る。
水素を使う燃料電池を生かせば、家庭やオフィスビルの省エネ化、バスやトラックなど商用自動車の低炭素化を加速できる。世界の企業は水素エネルギーの実用化を試みており、欧州エアバスは9月、水素を燃料とする航空機を35年までに事業化すると発表した。
欧州連合(EU)は50年に世界のエネルギー需要の24%を水素が担うとみて、官民で研究開発やインフラ整備を進め、燃料電池で動く列車の導入も始めている。中国政府も9月、燃料電池車の中核技術の開発企業への奨励金制度を導入した。
世界各国は水素の可能性に注目し、政策も総動員しながら大胆な取り組みを進めている。日本は技術開発で先行している部分もあるが、さらに利活用を進めなければ、世界から立ち遅れる懸念もある。象徴的な事実として、現在の政府が描く30年時点の電源構成では水素の活用を想定していない。来年まとめる新計画でどこまで水素を織り込めるか。50年ゼロの成否を左右する。
(随時掲載)
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