池上彰氏 地球への貢献 若者が主役に
2020年をSDGs教育元年に ムードに流されず意義を確認
- 2020/4/30付
- 1884文字
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若者たちはどのようにSDGs(持続可能な開発目標)を理解し、目標の達成につながる活動にかかわっていけばよいのだろうか。ジャーナリストで、大学教授として教壇にも立つ池上彰氏に聞いた。
ジャーナリストの池上彰氏
――企業のSDGsに対する取り組みをどのようにみていますか。
「オフィス街でSDGsのシンボルバッジをつけた企業の関係者が増えたと感じています。SDGsは新たな成長へのキーワードですが、ブームになってはいないだろうかと危惧しています。ムードに流されず、改めてその意義を確認してほしいと思います」
「企業は2030年のゴールに向けて取り組みを点検し、必要に応じて見直していかなくてはなりません。社員一人一人が行動する意識を持つ改革が欠かせないでしょう。社員が胸を張って、『私はこんな活動をしている』と語れるかどうかが大事なのです」
――SDGsを達成する意義とは何でしょうか。
「SDGsは国連サミットで全会一致によって採択されました。国連の長い歴史でも異例なことです。命を守り、教育の機会を確保し、地球環境を守るという問題意識を共有した証でしょう。その背景には発展途上国を対象に取り組んだMDGs(ミレニアム開発目標)がうまく進まなかったという反省があるのです」
「『持続可能な開発のための2030アジェンダ』に注目したいキーワードがあります。『我々はこの共同の旅路に乗り出すにあたり、誰一人取り残さないことを誓う』。目標達成への道のりを『共同の旅路』にたとえています。国連の予測によれば世界人口は50年ごろには100億人に迫る見通しです。地球は大きな船のようなものです。その取り組みは30年だけがゴールではないのです」
――若者はどのように持続可能な世界の実現にかかわっていけるでしょうか。
「若者たちは将来、企業や研究機関などでSDGsを達成する重要な担い手になります。地球の未来を切り開くのは、これからを生きる若者たちや子どもたちの世代です。そのためにも教育の機会を広げていく必要があります」
「一部の大学では学生が東日本大震災の被災地を学んだり、SDGsの啓もう活動に取り組んだりしています。課題の解決策を考え抜き、議論することは、世界に視野を広げる貴重な機会になるでしょう。これは私にもいえることですが、大学もSDGsに取り組み、学生と一緒に行動することも大事だと思います」
「最近、小学生がSDGsを学ぶ書籍の編集にも携わりました。小学生は言葉の意味や狙いなど具体的に話せば理解することができました。地球や未来にもとても関心があります。家族が働く会社のSDGs活動を解説すれば、より身近な教材になります」
――SDGsを学び、考えるポイントは。
「新型コロナウイルス問題があり、しばらくは授業やフィールドワークにも配慮せざるをえないでしょう。混乱が収束した後に備えて、いまは学びを深め、知識を蓄える時期だと思います。関連書籍やインターネットで世界の活動を調べてみてはどうでしょうか。感染症問題こそ、国境を越えて世界がともに考えていく共通のテーマです」
「就職活動を迎える学生なら、働きたい企業のSDGs活動を調べてみてはどうでしょう。たとえば日本企業の取引先は世界に広がっています。海外の取引先が環境破壊や児童労働のような問題にかかわっていないかも見逃せない点です。企業はグローバルな責任が求められているのです」
――企業はどのようにSDGs教育にかかわっていけばよいでしょう。
「SDGsは企業の価値を示す新たな評価基準となります。ただし評価するのは取引先や投資家だけではありません。若者が企業の役割や魅力を考える物差しにすることも意識してください。たとえば『SDGs決算』のような指標をつくってはいかがでしょう」
「業種に関係なく企業が存在感を高めるチャンスです。豊富なアイデアや人材を生かし、若者とSDGsの課題を一緒に考え、学ぶ機会を設ける方法もあります。関連する省庁とも連携し、若者参加型のプロジェクトを立ち上げることもできるでしょう」
「SDGsに対する若者の関心も高まってきました。30年のゴールを目指して、20年を『SDGs教育元年』にするには、若者への協力や支援といった企業の役割が重みを増しているのではないでしょうか」