温室効果ガス削減と持続可能な社会の実現に向けて自然エネルギー利用の関心が高まっています。大気中の二酸化炭素ガス濃度は産業革命以前から40%増加し、世界の平均地上気温は1880年から2012年の間で0.85度も上昇しました。有効な温暖化対策を取らなかった場合、21世紀末には世界の平均気温は2.6から4.8℃も上昇し、私たちの暮らしや産業に深刻な影響を与えると予測されています。 *1
図1 2100年までの気温上昇予測
出典:環境庁・COOL CHOICE「地球温暖化の現状」
https://ondankataisaku.env.go.jp/coolchoice/ondanka/

地球の温暖化を抑制するために、国連気候変動枠組条約締約国会議(通称COP)で2015年にパリ協定が合意され、政界各国は削減目標を定めて、温室効果ガスの削減努力をしていくことになりました。日本では、中期目標として、2030年度の温室効果ガスの排出を2013年度の水準から26%削減することが目標として定められました。この目標を達成するために、再生可能な自然エネルギー(再生可能エネルギー)の導入や炭素低排出なエネルギー利用によるエネルギーミックスの推進と徹底した省エネ対策が掲げられています。*2
そうした中で重要な枠割を果たすと期待されているのがコージェネレーションの推進です。
コージェネレーションと温室効果ガス削減
コージェネレーションとは
コージェネレーションとは、天然ガス、石油、LPガスやバイオマス等を燃料として、エンジン、タービン、燃料電池等の方式により発電し、その際に生じる廃熱も同時に回収するシステムです。*3 熱電併給とも呼び、海外ではCombined Heat & Power (CHP)とも呼ばれています。
一般的な火力発電の発電効率は40数%程度で最新のコンバインド発電設備で60%程度になりますが、排熱を回収して利用することで総合エネルギー利用効率を75〜80%まで高めることができます。*4 *5

図2 コージェネレーションのメリット
出典:コージェネレーション財団「コージェネの特長」
https://www.ace.or.jp/web/chp/chp_0030.html

熱エネルギーの低炭素化
日本の最終エネルギー消費量の約4割は熱利用です。熱利用を運輸部門を除く部門別でみると、家庭部門では最終エネルギー消費量のうち約65%、業務部門では約50%、産業部門では約56%を占めています。*6

図3 部門別エネルギー消費量
出典:資源エネルギー庁 総合資エネルギー調査会 基本政策分科会 長期エネルギー需給見通し小委員会
(第6回 平成27年4月10日(金))
資料1「分散型エネルギーについて」P11より

https://www.enecho.meti.go.jp/committee/council/basic_policy_subcommittee/mitoshi/006/pdf/006_05.pdf

私たちの生活における熱エネルギーの需要は大きいことがわかります。
これらの熱エネルギーは、化石燃料、電力、太陽熱や地中熱などから作られています。このうち、現在もっとも多くを占めているのは化石燃料です。温室効果ガス削減について議論されるとき、電力に関する問題はよく議論されますが、熱エネルギーの低炭素化もとても重要です。2030年のエネルギーミックス実現に向けた熱政策として、コージェネレーションの導入量を1690万kWに伸ばしていくことが掲げられています。*7

図4 2030年エネルギーミックス実現に向けた熱政策の進捗
出典: 資源エネルギー庁「実はCO2削減によく効く、熱エネルギーの低炭素化」
https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/netsu.html
日本でのコージェネレーション・システムの事例
 次に日本で利用されているコージェネレーション・システムの事例についていくつか紹介していきます。
① 個別家庭向けシステム エネファーム
エネファームは家庭用のコージェネレーション・システムで、都市ガス・LPガスを利用した燃料電池による発電と発電時に発生する熱でお湯を作り、給湯や暖房に利用できるようにするものです。最新の機器ではエネルギー効率は97%にも達し、1年間使用することで家庭の年間CO2排出量を約1.4トンも節約できると言われています。*8 設備の購入には国の補助金がでます。補助金交付台数の累計は平成30年度までで27万6千件となっています。*9
図5 エネファームのしくみ
出典:パナソニック「家庭用燃料電池エネファーム」
https://panasonic.biz/appliance/FC/lineup/house01.html
図6 エネファームのエネルギー利用効率
出典:パナソニック「家庭用燃料電池エネファーム」
https://panasonic.biz/appliance/FC/lineup/house01.html
② 大規模・集中型システム 川崎スチームネット
大規模な発電所を中心としたコージェネレーション・システムの例として川崎スチームネットがあります。(株)JERA川崎火力発電所のコンバインドサイクル発電で発生する蒸気を近隣コンビナート内の9社の工場に供給しています。2018年度の1年間で、各社がボイラで蒸気を作り出す従来工程と比較し、合計で年間約2万8千klの燃料(原油換算)と約6万3千tのCO2排出量削減を達成しました。一般家庭では、それぞれ約3万2千世帯分の年間エネルギー消費量と、約1万4世帯分の年間CO2排出量に相当します。*10
図7 川崎スチームネットの蒸気配管ネットワーク
出典:株式会社JERA川崎火力発電所パンフレット
https://www.jera.co.jp/static/files/business/thermal-power/list/pdf/kawasaki.pdf
③ 小・中規模分散型システム 日本橋室町地区
2019年3月に竣工した日本橋室町三井タワービルは、地下に大型のガス・コージェネレーションシステムを設置しています。周辺地域にあるオフィスビルや商業施設約20棟、延床面積100万m2に4.2万kWの電力、冷熱110kGJ/h、温熱60kGJ/hを供給することができます。災害等で系統電力が止まっても年間ピーク時の約50%の電力を供給することができ、非常時の事業継続性も高めることができます。
これまでにも再開発地域で都市型の地域コージェネレーション・システムの導入事例はありましたが、エリア内の既存のビルに対しても電力供給を実施するのは日本初です。また、情報ネットワークを活用したエネルギーマネジメントシステムを構築し、ビル内のエネルギープラントに新設したコージェネレーション・システムや自己熱源設備だけでなく、エリア内の既存ビルの熱源設備も含めた地域全体の熱源設備の最適運用を行い、熱需要の少ない時期に廃棄していた熱を有効活用できるようにしています。*11
図8 日本橋スマートエネルギープロジェクト全体図

図9 日本橋スマートエネルギープロジェクト供給可能エリア

図10 既存ビルの熱源設備も含めた地域全体の熱源設備の最適運用システム図8〜10 出典:三井不動産プレスリリース
「三井不動産・東京ガスの連携による日本橋スマートエネルギープロジェクトが始動」

https://www.mitsuifudosan.co.jp/corporate/news/2019/0415_01/download/20190415.pdf
日本のコージェネレーション・システムの課題
日本のコージェネレーション・システムによる発電容量は2018年で10,042MWです。これまでの推移から2030年には12,500MWにあたるコージェネレーション・システムが導入されると見込まれています。しかし、先程述べたようにエネルギーミックスの目標を達成するためには、これを16,900MWまで増やしていかなければいけません。そのために、1 今後の都市開発などにおけるエネルギーの面的利用/業務・産業用燃料電池の普及促進、2 コージェネレーションで発電した余剰電力の売電、3 エネファームの低コスト化、が考えられています。 *12
デンマークのコージェネレーション利用
コージェネレーション・システムは、歴史的に暖房のための熱需要が大きい北欧で早くから利用されてきました。中でもデンマークは普及率が高く、またその利用に関しても先進的な取組みがされています。
デンマークでのコージェネレーションの普及の歴史
デンマークではコージェネレーション・プラントをCHPと呼んでいるので、以降デンマークについての記載ではCHPと表記します。デンマークでの最初のCHPは1903年に作られた廃棄物処理施設ですが、CHPの普及が本格的に進んだのは石油ショックを契機にできたエネルギー政策によるものです。
表1に概要をまとめましたが、エネルギー政策は社会経済や環境問題を反映してアップデートされ、CHPも進化・発展していきました。CHPなどの施設でまとめて製造された熱を、熱導管を通して周辺の家庭やビルなどに供給する地域熱供給と呼ばれるシステムも都市部を中心に普及していきまいした。現在では熱単独の供給も含めてデンマークの家庭の63%が地域熱供給に接続していて、コペンハーゲンでは98%になります。*13 *14 *15

図11 デンマークの地域熱供給と風力・水力・太陽光を除いた総発電量に対するCHPの割合
出典:Danish Eneergy Agency「Energy Statics 2018」 P23より
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Analyser/energistatistik_slides_2018_uk.pptx

表1 デンマークのエネルギー政策の変遷とCHP普及の状況(概要)
政策CHPの状況
1976デンマーク初の総合エネルギー計画策定。エネルギー源の多様化や省エネルギーを目指す。発電の余熱や天然ガス利用の給湯計画が含まれる。

1979最初の熱供給法制定。国と地方の役割分担により、国として統一された政策に基づきながら、地域の特性に合わせて社会経済的にメリットのある熱供給計画プロジェクトを推進。火力発電所を中心とした大規模CHPの普及
1986小規模CHPを促進する政策議決。税金、補助金、電気料金やガス価格などの経済的インセンティブが用意された。小規模CHPの普及
1993CHPにバイオマス購入を義務付CHPのエネルギー源として、化石燃料から自然エネルギーへの転換が進む
出典:Sate of Green「熱電供給白書」P10,11
https://stateofgreen.com/jp/uploads/2018/10/12788.pdf?time=1571422558
State of Green 「持続可能なバイオマスから 競争力があるバイオマスの エネルギー活用」P2
https://stateofgreen.com/jp/uploads/2018/10/12790.pdf?time=1580717966
デンマークエネルギー省「Regulation and planning of district heating in Denmark」P11-14, 67
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Globalcooperation/regulation_and_planning_of_district_heating_in_denmark.pdf
などより作成
CHPの進化
デンマークでは2000年代の早い時期までにCHPと地域熱供給の面的な普及は進み、これ以上の拡大は難しくなりました。しかし、その後も新しい技術を取り入れながら進化・発展しています。現在のデンマークのCHPの主な特徴は、①エネルギー源の多様化、自然エネルギーの利用、②分散型システム、③蓄熱利用、④第4世代地域熱供給、が挙げられます。
① エネルギー源の多様化、自然エネルギーの利用
1980年代まではCHPのエネルギー源は化石燃料や天然ガスの利用が主でした。1990年代に気候変動対策としてCO2削減の意識が高まり、1993年にデンマーク議会の決定で、CHPに対して年間100万トン以上の藁を含む140万トンのバイオマスの購入が義務づけられました。今では地域熱供給のエネルギー源の50%以上は再生可能な自然エネルギーになっています。*14 *16

図12 地域熱供給における使用エネルギーの割合
出典:Danish Energy Agency「Energy Statistics 2018」P26より
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Analyser/energistatistik_slides_2018_uk.pptx

② 分散型システム
デンマークのCHPは1980年代までは火力発電所などの大型施設が中心でしたが、1986年から小型化CHPを促進する政策が実施されました。現在では分散したCHPや同時に発展してきた風力発電などその他のエネルギーシステムが高度にネットワークされてデンマークのエネルギー供給を支えています。需要やエネルギー価格の変動に合わせて柔軟に最も効率的なプラントの運転が選択できます。*17

図13 発電設備の分布図(1985年、2015年)
出典:デンマークエネルギー庁「Overview map of the Danish power infrastructure in 1985 and 2015」
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Statistik/foer_efter_uk.pdf

③ 蓄熱
分散型エネルギーシステムを支える重要な要素が蓄熱です。CHPや地域の熱供給システムには蓄熱槽が設置され、電力需要が少なく電力価格が下がっているときにはヒートポンプにより余剰電力を熱に変えて蓄えることができます。また近年増加してきている太陽熱システムでは季節間の蓄熱が可能な大規模蓄熱設備が利用されています。このようにデンマークでは蓄熱により電力と熱を合わせてエネルギーの有効活用ができるようにしています。*18 *19

④ 第4世代地域熱供給
地域熱供給で利用される熱は図14のように低温化していき、現在は第4世代と呼ばれる100℃以下の温水利用のシステムが開発されています。低温化は配管での熱損失を抑えることができ、また熱源としてさまざまなものが利用できるようになります。低温熱のエネルギーの有効活用のために重要な技術です。*20 *21

図14 地域熱供給ネットワークの歴史的発展
出典:State of Green 「地域熱供給白書」P28より
https://stateofgreen.com/jp/uploads/2018/10/12788.pdf?time=1571422558
脱炭素化に向けたデンマークのエネルギー政策
デンマークは2050年に化石燃料からの完全脱却を目指しています。2017年には風力発電で43.4%の電力が賄われ、今後さらに風力発電を増やしていく計画です。*22
図15のように地域熱供給におけるCHPのシェアは今後低下し、電力を利用したヒートポンプや電気ボイラーのシェアが増加する予測となっています。これは変動の大きい風力発電の余剰電力を使用するものです。これまで見てきたようなコージェネレーションを中心として発展してきた地域熱供給ネットワークが、風力発電の有効利用のためにも重要な役割を果たし、2050年の脱炭素化目標を支えていることがわかります。

図15 地域熱生産における熱源のシェア予測(風力シナリオ)
出典:デンマークエネルギー庁「Regulation and planning of district heating in Denmark」P23より
https://ens.dk/sites/ens.dk/files/Globalcooperation/regulation_and_planning_of_district_heating_in_denmark.pdf
まとめ
コージェネレーションはエネルギーを電力と熱に変換して高い効率で利用できる優れたシステムです。日本でも家庭向けのエネファームや都市のビルを中心とした一部のエリアで導入が進んできています。今後さらに普及を推進していくことが望まれます。
また、デンマークの事例のように、コージェネレーションだけではなく地域の熱供給ネットワークを広げて、自然エネルギーによる電力と組み合わせていくことが、エネルギーの有効活用のために有用です。日本でも、日本の環境に合った自然エネルギーと地域熱供給を組み合わせたシステムが構築できると素晴らしいでしょう。