https://www.nikkei.com/article/DGKKZO66532960S0A121C2MM8000/
経済の脱炭素 25年停滞 英は排出3分の1 日本、技術革新が急務
- 2020/11/22付
- 1200文字
- [有料会員限定]
温暖化ガスの排出削減を巡り、日本の産業界の足踏みが続いている。同じ国内総生産(GDP)を生み出すためにどれだけ二酸化炭素(CO2)を排出したかを国ごとに比較すると、日本は1990年代から横ばい。再生可能エネルギーが普及した欧州各国はこの間、2分の1から3分の1に圧縮した。日本政府は2050年に排出量を実質ゼロにする目標を打ち出すが環境を軸に成長を探る世界は先を走っている。
「日本では再生エネ調達に課題がある。海外企業と同一基準で評価されると投資資金が回ってきにくい」。ソニーの志賀啓子・サステナビリティ推進部ゼネラルマネジャーは日本に生産拠点を置く企業としてジレンマを感じている。ESG(環境・社会・企業統治)への取り組みで投資先を選別する動きが浸透し、比較しやすいCO2排出量は投資判断への影響も大きい。
日本が付加価値を生むために排出するCO2の量は削減が進んでいない。排出する温暖化ガスの量をGDPで割ると、2018年でGDP1万ドル当たり約2.5トン。1995年当時とほぼ同水準だ。
省エネルギー化を進めた日本は1990年代、GDP当たりのCO2排出量の少なさで世界の先頭集団にいた。ところが2000年代に入りフランスや英国に抜かれ、差も広がる。原因は電力だ。欧州では風力発電など再生エネが火力発電のコストを下回るようになり、18年には発電量の34%を占めた。電力の低炭素化(総合2面きょうのことば)が進み、英国のGDP当たりの排出量は、1995年当時の約3分の1だ。
CO2排出量が少ない天然ガス発電が広がった米国も、日本との差を縮めた。日本は再生エネが2割にとどまるうえ、11年の東日本大震災で原子力発電所が運転を停止。3割程度を占める石炭火力発電への依存が下がらない。
日本の個別の企業が環境への取り組みに消極的というわけではない。英国の非政府組織(NGO)、CDPが世界の企業を対象に温暖化対策を評価した格付けで、日本企業はイオンなど38社が最高評価。米国などを上回り世界最多。業種ごとの特徴や経営陣の関与などを評価した結果だ。電力を全て再生エネで賄うことを目指す企業連合「RE100」には、米国に次ぐ42社が参加する。
日本の足踏みにはもう一つ理由がある。自動車を頂点に部品、素材が連なる産業ピラミッドがあり、鉄鋼や化学などのCO2排出が多い。みずほ情報総研の元木悠子氏は「産業構造の転換が遅れ、国全体の排出量削減が進んでいない」と指摘する。
欧州連合(EU)は新型コロナウイルスの感染拡大で落ち込んだ経済を、環境対策をてこに立て直す「グリーンリカバリー」を掲げる。日本の産業は後方からのスタートになる。だが現在の立ち位置をバネに、排出を抑えた工業品や素材の生産、再生エネを無駄なく使うための蓄電池といった分野で革新的な技術を生むことができれば、新たな競争力を手にすることになる。
(花田幸典)
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。