システム思考のツール
システム思考で対象にするシステムは、国際社会・国・地域、市場・業界・企業、大小様々な組織、職場や家族の人間関係、多様な個人などを対象とします。そこには複数の要素や、関係者毎のさまざまな見える範囲、立場などがあるために、ものごとの理解も一様ではなく、互いに食い違ったり矛盾したりすることもしばしばです。
こうした複雑性を理解するために、システム思考では物事をありのままに見て、また、さまざまな要素がどのようにつながっているかを見える化し、関係者間で話し合えるようにさまざまな見える化ツールを活用します。
こうしたツールを用いて、自分や自分たちの考えを整理し、また、他者の見方と比べたり、あわせ見たりすることでシステムに関するさまざまな側面への理解を広げていきます。
これらのツールは、しばしば自分たちのものの見方の不完全な側面や言行が一致しない側面に気づき、内省するきっかけを与えると共に、現実のシステムの中でどのような要素をつなげ、組み合わせる機会があるかを指し示してくれます。
また、個人の心理や組織風土、行動レベルの課題であれば、定性的なシステム思考ツールで十分役に立ちます。一方、投資や予算が大規模となるような案件では、定量的な分析を組み合わせて活用していきます。
システム思考のツールの習得は、課題の規模や難易度にもよりますが、基本・中級ツールは数週間から数ヶ月、上級ツールは数年のトレーニングを要します。
1 時系列変化パターングラフ(BOT)
システムの主要な要素(目標とするアウトプット、インプット、活動量、資本・資源、影響など)の過去から現在、未来までのパターンを折れ線グラフで描きます。中でも関心の高い要素に関しては、未来に向かって「望ましいパターン」「このままのパターン」など複数のパターンを描きます。定量的な分析を行う際には、ループ図などのシステム図と相互に行き来しながら、量的なレベルについての検討に活用します。
英語ではBehavior Over Time といい、BOTと略して呼ばれています。 |
2 ループ図(CLD)
「今までのパターン」「このままのパターン」がなぜ起こるかについて、システムの主要な要素及びそれらに影響を与える要素、影響を受ける要素を列挙し、要素間の因果関係を矢印で結びながら、要素間の相互作用(フィードバックループ)を見出すためのツールです。今起きているパターンを説明し、関係者が納得できるループ図を描いたら、対話によって理解を深め、効果的な働きかけを探るためにも用います。
英語ではCausal Loop Diagram といい、CLDと略して呼ばれています。 |
3 システム原型(Systems Archetype)
4 ストック&フロー(Stocks & Flows)
システムの中で蓄積する要素(ストック)と、その蓄積を決定する要素(フロー)の構造は、フィードバックループと並んでシステムのダイナミクスを理解する上で重要な役割を果たします。さまざまな要素間で、このストックやフローを共有したり、その連鎖の一部となっていることで、互いに影響を与え合うことがしばしばです。中級レベルでは、ストックとフローを理解し、他の要素とかき分けたり、ストックとフローの適切な境界を再設定することで効果的な働きかけを見出します。成長の限界をつくる供給源や吸収源もまた、ストックの一種です。
英語ではStocks & Flows といいます。 |
5 システム・ダイナミクス・モデリング(System Dynamics Modeling)
システム思考にはさまざまな流派がある中で、システム・ダイナミクス学派のシステム思考は政策分析や企業戦略、組織開発などにおいてもっとも活用されていると言えるでしょう。前述のストック&フローやフィードバックループなどが絡み合い、それぞれの関係性を定量的に把握したシステム・ダイナミクス・モデルを構築することで、今まで起きた変化の機序を定量的に把握すると共に、さまざまな政策・施策がどのような結果やインパクトにつながるかについて中長期の時間軸でシミュレーションを行うツールです。
英語ではSystem Dynamics Modeling といいます。 |
6 レバレッジ・ポイント(Leverage Points)
日本語に訳すと、「てこの力点」を意味し、小さな力で大きな成果を生み出せる介入点のことを指します。問題構造のツボと言ってもよいでしょう。実際には。政策や戦略の議論において私たちは、しばしばレバレッジのないポイントで議論を重ねたり、資源を投入していることがありがちです。しかし、複雑なシステムのレバレッジ・ポイントがどこにあるかはシステムの機序について相当の理解を重ねないとぱっと見ただけではわかりません。魔法の杖にはなりませんが、経験あるシステム思考家は、順序立てたレバレッジのありうるポイントでそれぞれ見立てをし、可能性の強い分野で関係者たちと対話を重ねたり、現場で観察・実験を繰り返すことでレバレッジ・ポイントを見出していきます。
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