2020年5月4日月曜日

マイケル・ムーア製作の最新ドキュメンタリーが大炎上の理由

https://courrier.jp/news/archives/198622/

米国のドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア氏。Photo by Santiago Felipe/Getty Images
米国のドキュメンタリー映画監督マイケル・ムーア氏。Photo by Santiago Felipe/Getty Images
ガーディアン(英国)ほか
ガーディアン(英国)ほか
Text by COURRiER Japon

現行のグリーンエネルギー政策は「失敗だ」


先日、50周年を迎えたアースデイ(地球の日:4月22日)に、マイケル・ムーア製作の最新ドキュメンタリー「Planet of the Humans」がYoutube上で無料公開された。

同作は、環境保護主義者であるドキュメンタリー製作チームが、現行のグリーンエネルギー政策や大手環境団体のダークサイドに切り込むというもの。

環境保護リーダーが、我々を導いた先にあるのは「崖っぷち」。「我々は、温暖化を止めることに失敗し続けている」と述べ、環境問題の答えをすべて、テクノロジーとグリーンエネルギーに求める考えに警鐘をならす。
視聴回数は、公開から1週間足らずで300万回超え。大いに話題を集めた。ただし、評価は割れている。
同作は「脱・地球温暖化」「脱・化石燃料」の切り札と言われてきた代替・再生可能エネルギーが、実は「地球を救う“切り札” として機能していないのではないか」と「疑問を投げかけるのが狙いだ」と、監督のジェフ・ギブスとマイケル・ムーアは公開前にロイター社に語っていた。

しかし、多くのメディアや環境の専門家が受け取った印象はこれとは異なるようだ。英紙「ガーディアン」、米誌「Vox」などは「大衆の誤解を招きかねない危険な作品」と批評しており、中には「撤去すべき」との声まで挙がっている。

グリーン政策の背後にある“不都合な真実”


同作は、グリーンエネルギー政策や大手環境団体のダークサイドを暴くべく、アースデイのコンサートのバックステージに踏み込む。

舞台は、アースデイの創始メンバーで環境保護や太陽光発電の提唱者であるデニス・ヘイズが「このイベントは太陽エネルギーで賄われている」とクリーン・エネルギー宣言をした15年のコンサート
そこに参加した監督は、太陽エネルギーの実態を探るためバックステージへと潜入する。

そこには確かにソーラーパネルが設置されているのだが、そのエネルギーで賄われているのはコンサートのほんの一部。「これではトースター1台が使えるくらいの電力にしかならない」「コンサートは、ほとんどディーゼル発電機で運営されている」との証言を得ている。

また、同作はソーラーパネルの材料には、鋼鉄やセメント、ガラスなど環境負荷の高いマテリアルが含まれていることや、その製造過程で排出される廃棄物の多さを指摘する。

監督はソーラーパネルに必要な材料を販売する関係者へのインタビューを行い「10年ちょっとしか持たないソーラーパネルもある」、「ソーラーパネルを地球環境の未来を救う切り札のように考えている人たちがいるが、それは妄想だ」との発言を収めている。

アースデーには、アップルストアの店頭ロゴの葉っぱ部分が緑色に。Photo by VCG/Getty Images
さらに、米アップルの「100%再生可能エネルギー」宣言にも踏み込む。

監督は、企業の再生可能エネルギープログラムを調査する科学者にインタビューを行い、「100%太陽光や風力で賄われている企業など、現時点では世界中にひとつもありません」との証言を取っている。

そして、同作は米アップルの太陽光発電設備は「森を破壊して作られたものだ」と続けるのだが……。これだけでは「アップルは嘘をついている」との印象を受けかねないが、実情はそういうわけではない。

再生可能エネルギーだけで賄われていないのに、なぜ「100%再生可能エネルギー」宣言ができる理由は、再生可能エネルギーに対する助成手法のひとつ「グリーン電力証書(Renewable Energy Certificates)」にある。

これは、電力会社から供給された通常の電力(非代替エネルギー)を利用する際に、合わせてグリーン電力証書を購入すれば「100%再生可能エネルギー」宣言ができるというもので、いわば、自前の発電設備を持たない場合でも、お金を払えば「100%再生可能エネルギー」宣言ができてしまう状況を作っている。
これが「100%再生可能エネルギー」で「賄われている」という印象と実情の間のズレを生み出していることは、これまで複数の専門家やメディアが指摘してきた。

しかし、同作はこの複雑な構造を解説せず、企業や環境団体がアピールする環境への取り組みの「怪しさ」や「不充分さ」を並べて強調する。

こういった作りに対し、「映画製作者は、事実を捻じ曲げている」「気候変動への責任がどこにあるのか、間違った認識を広めかねない」と、米誌「Vox」は批判する。

環境保護主義者の環境保護主義者を批判、極右ウハウハ?


英紙「ガーディアン」もまた、環境問題の論客として知られるアル・ゴアや、温暖化問題を世界に広げるための国際的な組織「350.org」を設立したビル・マッキベンなどを「“アメリカ拝金主義の権化”らに魂を売った、偽善」だとして同作は「非難している」と述べている。

つまり、同作は「疑問を投げかけるもの」というより、どちらかといえば「環境保護の推進者、およびその取り組みを非難した作品」との印象を与えている。

実際、同作はこう視聴者に警告している。

「私たちが信じていた環境保護のリーダーたちは、大衆を間違った道へと誘おうとしている。なぜなら、リーダーたちはグリーン・ムーブメントを拝金主義者やアメリカの資本主義に売ってしまったのだから」と。

これまで、気候変動に関する間違った情報を流したり、環境保護の提唱者やその活動を「偽善だ」などと非難するのは、化石燃料関連の企業や気候変動の否定論者たちだったが、「まさか、進歩派の映画製作者がそれをやるとは」と、Voxは述べる。

皮肉にも、米ニュースサイト「ブライトバート」をはじめ「保守や極右は、同作に好意的だ」と、米誌「ギズモード」は報じている。

10年前の情報は「2020年のファクトではない」


科学者や専門家たちも、同作の「再生可能エネルギーは頼りなく」「機能させるためには、いまだに化石燃料を必要とし、それに依存している」「環境破壊ないし温暖化に加担している」との主張を「危険なもの」だと、厳しい批評を寄せている。

エネルギー問題に詳しい専門家のケタン・ジョシは、同作を化石燃料の危険性を訴えるものでも、環境保護の大切さを広めるものでもなく「再生可能エネルギーがなぜダメか」を主張するものだと語る。

にもかかわらず「情報が古い」。同作が述べる太陽光や風力エネルギーに関する情報は「約10年前のものだ」

太陽光発電の専門誌「PV」もまた、同作の中の「太陽光発電の変換効率はたったの8%以下」とのリポートに対し「2009年の話ですか」「現在の変換効率は、別次元は改善(16%-22%)されている」と指摘。

その他にも同作は、電気自動車やバイオ燃料など、化石燃料よりCO2排出や環境負荷が少ないとされる代替手段やエネルギーの問題点にも焦点を当て、片っ端から「疑問を投げかけて」いる。

しかし、情報が古かったり、間違っていたり、解説を端折り、誤解を招きかねない論調となっている。

つまり「再生可能も代替エネルギーも、これがダメ、あれがダメ」と問題を提起するばかりで、「では、新たな解決の糸口は?」の答えは用意されていない。このことも酷評の一因となっている。

こういった批判があまりにも多かったからか、マイケル・ムーアやジェフ・ギブスなど製作チームは、作品公開から約1週間後に米誌「ザ・ヒル」のニュース番組に出演し、批判への釈明を行っている。

マイケル・ムーアは「このパンデミックから私たちは多くのことを学ぶべきだ。私たちはどこで躓き、今後どのように気候変動と戦って行くべきか」「バンデミックという非常事態に自主隔離という制限で対応できた私たちは、気候変動という非常事態にも対応できるはず」と、彼なりの新たな解決の糸口を語った。

環境保護の推進者を非難しているとの指摘がありますが、との質問を受けたジェフ・ギブスは「彼らの活動には感嘆するばかりです」と敬意を示し、「ただ、解決されていない問題はあります」と述べた。また、同作の狙いは、代替・再生可能エネルギーを批判することではなく、「疑問を投げかけることで、議論を活性化することだ」とも。

もっとも、酷評されたのは「マイケル・ムーア製作ドキュメンタリーならば」という期待の高さも関係しているようだ。「Youtube上で無料公開されている(レベルの)動画」だと思ってみれば、それなりの作品だとの見解も少なくない。

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