温暖化ガス、コロナで急減 今年、リーマン時の6倍
IEA試算 経済再開時の抑制焦点
- 2020/5/10付
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コロナ感染拡大の影響で石油などの需要が急減している(米テキサス州)=ロイター
新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停止で、2020年の温暖化ガスの減少が過去最大となるとの試算が相次いでいる。国際エネルギー機関(IEA)は減少幅をリーマン・ショック後の09年の6倍と試算した。ただ経済活動再開や景気刺激策で、温暖化ガス急増を懸念する声も出る。経済回復と温暖化ガス削減に向けた取り組みの両立が今後の課題となる。
IEAは20年のエネルギー関連の二酸化炭素(CO2)の排出量は前年比8%(約26億トン)の減少になると予測した。08年秋に起きたリーマン・ショックの影響を大きく上回る。英国に拠点を置く気候変動分析サイト「カーボン・ブリーフ」もCO2の排出量が同5.5%減ると推計した。新型コロナ拡大による都市封鎖や航空機の運航停止で化石燃料需要が急減したことが要因という。
温暖化ガスを多く排出するとして批判や投資引き揚げの対象となっていた石炭需要は、中国やインドなどの経済活動の停止を受け20年1~3月期では前年同期比で8%も減った。実際、インドでは大気汚染の改善により都市部でヒマラヤ山脈が見えるなどの現象も起きている。ただ外出制限でも家庭内や医療機関における電力など社会の維持などに欠かせない需要があるため、国内総生産(GDP)の減少幅と比べて小幅となっている。
リーマン・ショックでは温暖化ガス排出は「リバウンド」と呼ばれる急増に転じた。各国が景気刺激策を打ち出したからだ。カーボン・ブリーフは経済活動の再開で「(コロナ感染拡大による)温暖化ガス減少は一時的なものになるだろう」と警鐘を鳴らす。
国連環境計画(UNEP)は地球温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」などが掲げる産業革命前から気温上昇を1.5度に抑えるという努力目標を達成するためには、30年までに年間7.6%のペースで温暖化ガスの排出量を削減する必要があるとしている。
いくら温暖化ガスが減っても雇用の確保や企業活動の再開など経済回復が伴わなければ、自然エネルギーなどへの投資も細り持続可能な社会が実現しない。そのためIEAのファティ・ビロル事務局長は「クリーンエネルギーへの転換を経済回復や景気刺激策の中心政策にすべきだ」と提言する。
提言に沿う動きも出始めた。フランス政府は航空便の停止で経営難に陥ったエールフランスに対し、支援の条件として高速鉄道TGVと競合する国内の短距離路線の廃止を求めた。航空機の温暖化ガスの排出を抑制するための措置だ。
4月28日には、日本の小泉進次郎環境相も参加し、気候変動を議論する約30カ国の閣僚級会合が開かれた。参加国は「温暖化ガスの削減目標の強化は進めるべきだ」とし、経済復興計画がパリ協定に沿うものでなければならないと確認した。
一方で雇用対策として化石燃料産業への支援を手厚くする国もある。代表は環境規制を緩和してきた米トランプ政権だ。4月21日に「米国の偉大な石油・ガス産業を落胆させることは決してしない」と雇用確保のため化石燃料産業への資金支援を表明した。
オーストラリアのモリソン政権も、担当相が「炭鉱の増産がより重要になった」と発言した。一部の州では石油・ガス部門の事業のライセンス料の支払いを猶予するという。
英国で11月に開催する予定だった第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)は延期が決まった。約190カ国はCOP26に向けて温暖化ガスの削減目標を示し、具体策を議論するはずだった。新型コロナの拡大による経済への影響が深刻で、削減目標の提出は進まない。
小泉環境相は4月の記者会見で「グリーン投資につなげなければ、パリ協定が死ぬ」と警告した。経済回復をクリーンなエネルギーへの移行にいかに結びつけるかが温暖化対策の鍵となる。
(気候変動エディター 塙和也)
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