2020年3月19日木曜日

火力発電も「脱炭素」探る 三菱重・川重が水素混合設備 技術磨きESG対応

■出典: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO56969730Y0A310C2TJ1000/

火力発電も「脱炭素」探る
三菱重・川重が水素混合設備 技術磨きESG対応

2020/3/19付



環境志向による火力発電への逆風を受け、日本の重工大手が次世代型の設備開発を急いでいる。三菱重工業は燃料に水素を混合できる大型設備を世界で初めて受注した。石炭のみを使った場合に比べて二酸化炭素(CO2)の排出量を7割、天然ガスよりも1割減らせるという。川崎重工業も水素設備の商用化を急ぐ。投資マネーなどによる「脱炭素」の風圧が強まるなか、技術力を磨くことで事業存続の道を探る。
「石炭火力への世の中の風当たりは厳しい。今後、水素燃料でどう社会のニーズに応えていくかだ」。三菱重工の泉沢清次社長は危機感を募らせる。
三菱重工の子会社である三菱日立パワーシステムズ(MHPS、横浜市)は12日、水素を使う火力発電設備を初めて受注したと発表した。米ユタ州の電力事業者向けで、出力は約84万キロワット。受注額は300億~400億円とみられる。
45年に水素100%
水素は燃やしても水が出るだけでCO2を排出せず、「究極のクリーンエネルギー」とも呼ばれる。MHPSの新設備は通常、天然ガスを燃やして発電するが、2025年の稼働時には30%水素を混ぜてスタートする。
三菱日立パワーシステムズの高砂工場(兵庫県高砂市)内にある水素混合燃焼の火力試験設備
三菱日立パワーシステムズの高砂工場(兵庫県高砂市)内にある水素混合燃焼の火力試験設備
ガスのみを使った場合と比べて約1割、年間460万トンのCO2を削減できるという。これは東京都の約2.4倍にあたる面積の森林が吸収する量に匹敵する。技術改良を進め、45年までに100%水素発電に切り替える
一方、川崎重工は天然ガスと水素の混合型の小型ガスタービンを開発した。神戸市で世界初となる市街地での実証実験を19年初めまで実施した。20年度からはゼネコン大手の大林組と組み、より効率を高めた新型タービンの実験を始める。
発電用ボイラー大手のIHIも石炭火力発電にアンモニアを20%混ぜることで、CO2を4%程度減らす技術の20年中の実用化を目指す。
火力発電をめぐる世界的な情勢は厳しさを増す。19年12月に開かれた国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP25)。各国は温暖化ガスの削減目標を引き上げることで合意した。特にCO2排出量の多い石炭火力は矢面に立たされている。
背景には、企業の環境保護などへの取り組みを考慮して投資先を選別するESG(環境・社会・企業統治)投資の拡大もある。金融機関などが化石燃料を扱う企業に対する投融資を中止するなどの「ダイベストメント」も進み、世界各地で火力発電の建設計画のキャンセルが相次いでいる。
海外勢は縮小へ
世界中で悪者扱いされる火力だが、東南アジアなど新興国では太陽光など再生可能エネルギーだけで電力需要をまかなうのは難しい。国際エネルギー機関(IEA)は今後のメインシナリオとして、火力発電は40年時点でも世界の発電量の約半分を占めると予想する。重工大手が事業になおこだわるゆえんだ。
ただ、現状の設備を売り込むだけでは立ちゆかない。各社は低炭素や省エネの技術力をアピールし、投資家などからの理解を得たい考えだ。日本は液化天然ガス(LNG)発電の比率が高い。燃料効率を高めるタービン技術などで世界に先行していることも強みだ。
三菱重工はMHPSの高砂工場(兵庫県高砂市)で7月、全長240メートルに及ぶ巨大な省エネ型の実証発電所を稼働させる予定だ。隣接地には水素混合技術の実証設備もすでに稼働させており、技術改良を進める。
川崎重工は従来型の火力の蒸気タービンについては絞り込みを急ぐ。東芝グループと組み発電能力で10万~20万キロワットの中型の製品を共同開発中。木材やごみを活用したバイオマス発電のプラントなど、再生可能エネルギーの需要を開拓する。
日本勢を横目に、海外の重工大手はいち早く火力事業のリストラにかじを切る。米ゼネラル・エレクトリック(GE)は火力部門で大型のリストラを発表した。独シーメンスも火力発電機部門などの分社化を決めた。
一方、三菱重工は19年3月期で火力事業を中心とするパワー部門が、連結事業利益(国際会計基準)の約7割にあたる1328億円を稼いだ。成長分野に振り向ける資金を稼ぐ貴重なキャッシュカウ部門でもあり、簡単には縮小できない。19年末には、MHPSの事業から撤退する日立製作所の株式を取得すると発表した。シーメンスの事業買収を検討したこともあるなど「残存者利益」を狙っている。
野村証券の前川健太郎シニアアナリストは「『火力発電だから』と全てネガティブにとらえるのは行き過ぎだ。技術によっては競争力を発揮できる」と理解を示しつつも、「うまく省エネ型などに移行できるかがカギだ」と指摘する。脱炭素という世界的なうねりを前提に、革新的な技術を提案できるかが事業の存続を左右する。
(渡辺直樹、福本裕貴)

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