2020年3月18日水曜日

「女の子」の呪いを解く魔法は?

「女の子」の呪いを解く魔法は?
大手商社や保険業界2強に続き、メガバンクでも4月、初の理工系トップが誕生します。経営者も理工系人材が注目されている昨今ですが、中高生向けにIT(情報技術)・プログラミング教育を手掛けるライフイズテック(東京・港)の水野雄介最高経営責任者(CEO)に少し意外な話を聞きました。
同社のキャンプに参加する女子比率は4割。能力的な男女差は感じないものの、女子が開発したアプリの方が一般に評判がいい傾向があると言います。ダウンロード数ランキングの上位5人が全員女子だった年もあったそうです。「ニーズのとらえ方やデザインに長けている」点が、社会に受け入れやすい製品につながっているというのです。
[画像]
高校1年からキャンプに通い始めた羽柴彩月さんが、高2の時に開発した勉強をサポートするスマホアプリ「STUGUIN」もその好例。勉強を始め記録をスタートさせると、SNSやゲームはシャットアウトされて集中できたり、友人と通知し合うようにすれば刺激になったりと面白い工夫がされていて、15万ダウンロードを超える人気です。慶応義塾大学環境情報学部を卒業し、4月から大学院に進む羽柴さんは将来、ITエンジニアになるつもりだと言います。
ほかにも海外の大会で入賞したり起業したりと活躍の場を広げている女子たちもいます。「少し意外な話」と最初に言ったのは、理工系に進む女性がまだ少ない中で、こんなにも活躍している若い女性たちがいることに驚いたのです。
大学のリケジョは3割未満
実際、文部科学省の学校基本調査(2019年度)によると、大学全体では女子学生の割合は45%ですが、理学系は28%、工学系にいたっては15%となります。またITエンジニアに占める女性の割合も2割(情報サービス産業協会調べ、19年度)にすぎません。理工系の女性を採用したくても絶対数が少なく、他社との奪い合いでなかなか採用できないという会社社長の嘆きも聞きます。
理工系女子(リケジョ)が少ない要因について、昨年6月に公表された「男女共同参画白書」が分析しています。前提となった詳細な調査結果はここでは省きますが、子どもの時は理科好きが多く、理数系科目の学力不足でもないのです。周囲の女子の進学動向、親の意向、身近にロールモデルがいないことなどが、理工系分野で活躍するイメージを描きにくくしていると指摘しています。そしてさらに、こんな声もよく耳にします。
「呪いのせい」と表現するのは、30代の女性起業家。結果的には理系に進んだ彼女にとっての「呪い」のひとつが、学校の先生から「男子の方が理系科目ができるから女子は文系に行くべき」と言われたことだといいます。「呪い」とは言い得て妙で、悪意はなかったとしても受け手にとっては本来の姿を歪められかねないからです。リケジョの端くれの私も似たような経験がありました。ただし彼女より、かなり昔の話ですが……。
[画像]
とはいえ、今もこうした「呪い」は残っています。「下の子は女の子だからいいのよ、なんて言う母親がいまだにいるから」と憤るのは、IT企業に勤める工学系出身の40代女性。子どもの同級生のお母さんが、息子に比べ娘の教育を軽んじるのを聞くことがあるそうです。お茶の水女子大の室伏きみ子学長も「親や教員に子どもの頃から『女子は理工系に向かない』と言われるうちに、本人も無意識にそう思い込む『アンコンシャス・バイアス』も背景にある」と、日本経済新聞への寄稿で言及しています。その結果、才能ある芽が摘まれてしまっては、本人にとっても社会にとっても残念なことです。
無意識にせよ意識的にせよ偏見や思い込みにより歪められるのは、理工系の進路選択に限りません。18年には複数の大学医学部で女子や浪人生を不利に扱う入試不正が発覚。つい先日、採用選考で性別に関する情報の記載を廃止したユニリーバ・ジャパン(東京・目黒)が事前に行ったアンケート調査で、採用の書類審査時に性別によるバイアスがあったことが浮き彫りになっています。
男性も女性も縛る無意識の偏見
また日常的にも性別役割分業意識といった無意識のバイアスに男女とも縛られています。家庭で、学校で、職場で、政治や経済、社会、様々な場面で顔を出します。まずはバイアスに気づくところから始めませんか?性別ばかりか多様な価値観や文化を認め合えれば、各々がもっと自由に本来の力を発揮し、社会をより強く、多彩に活性化できるのでは。
幸いなことに、羽柴さんはそうした偏見には遭遇しなかったといいます。周りの友人たちも同様だと聞き、まだまだ「呪い」の残る社会であっても、それが取り除かれたところですくすくと伸びていく芽が楽しみです。前出の女性起業家のような人材も増えてきています。そんな強みを活かしている彼女たちの活躍が、また次につながる力にもなるでしょう。
社会が呪縛から解放されることを願いつつ、若い女性たち、女の子たちにはこの言葉を贈ります。Let it go!



0 件のコメント:

コメントを投稿

注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。