森林大火災 「主犯」は温暖化
世界で多発 高温乾燥に拍車
- 2020/3/15付
大規模な森林火災が世界各地で発生している。オーストラリアで2019年から続いていた火災は、日本の面積の3分の1ほどにあたる1260万ヘクタール以上が焼失した。森林火災があまり見られなかったアラスカやシベリアなど北極圏近くでも近年、多発している。地球温暖化やそれに伴う異常気象が拍車をかけているという見方が強まっている。
豪州で最も被害が大きかった南東部のニューサウスウェールズ州の消防当局は3月初旬、240日以上にわたり続いた火災が鎮火したと宣言した。ユーカリの木が林立する同州では540万ヘクタールが焼失した。山火事は例年発生するがその範囲は30万ヘクタールほどだという。今回の火災規模は18倍にもあたる計算だ。
「今シーズンは特に火災が燃え広がりやすい条件がそろっていた」。生態管理に詳しい横浜国立大学の森章准教授はこう説明する。延焼しやすい条件は高温と乾燥だ。豪気象局によると19年は観測史上最も気温が高く、平年より1.52度上回った。年平均降雨量も4割少なかった。
高温少雨の背景には、インド洋熱帯域の西で海水温が高温に、東で低温となる「インド洋ダイポールモード現象」の発生がある。東側で高気圧が勢力を強めて晴天が続き、熱風が豪州に吹き込んだ。
今回の火災の特徴は、豪州本土から海を挟むカンガルー島にも及び各地で多発したことだ。森准教授は雨を伴わない乾いた雷「ドライライトニング」が原因とみている。
この気象現象はまず、火災で発生した煙が上空で冷やされながら積乱雲などの雷雲に発達する。発達期から衰弱期に入ると強い下降気流とともに雷をもたらす。このとき雨は高い気温のために上空で蒸発し、雷が乾燥した大地に落ちる。これが次の火災を生むという仕組みだ。
ドライライトニングは森林火災が頻繁な米カリフォルニア州でも多く発生する。森准教授は「気候変動が顕著になれば乾燥した地域はより乾燥し、こうした極端な現象は増えるだろう」と予測する。
森林火災は北極圏でも増えている。世界気象機関(WMO)によると、19年6月からシベリアやアラスカで大規模で長期的な火災が少なくとも100件以上発生した。原因は高温だ。シベリアの19年6月の気温は1981~2010年の平均を約10度上回った(WMO調べ)。
シベリアやアラスカは温暖化によって永久凍土の融解が始まっている。ぬかるんだ湿地は落ち葉や植物が枯死した泥炭という土壌が多い。1年に数ミリメートルのペースで堆積し続けている。この泥炭が高温になると乾燥し、上部の針葉樹だけでなく土壌も合わせて燃やしてしまう。日本大学の串田圭司教授は「表面を消火しても燃え続ける場合もあり、消火しづらい災害となる」と解説する。永久凍土の融解も加速させてしまう。
単に燃えるだけではない。泥炭には温暖化ガスである二酸化炭素(CO2)が大量に蓄えられている。堆積速度が年1ミリと仮定すると、10センチメートル燃えただけで100年分のCO2が大気中に放たれる。串田教授は、97~98年にかけてインドネシアで起きた大規模な泥炭火災で大気に出た炭素は1ギガ(ギガは10億)トンに上り、1年の世界のCO2排出量に換算すると15%に相当すると試算する。「温暖化が進行すれば各地で泥炭火災が発生しやすくなる」(串田教授)と警鐘を鳴らす。
森林火災の発生を予測できないだろうか。宇宙航空研究開発機構(JAXA)は複数の人工衛星のデータを組み合わせ、火災の延焼しやすさを地図で表示する技術を開発中だ。豪州の火災では水循環変動観測衛星「しずく」などを使い、干ばつの状況を調べた。19年10~12月の3カ月の降水量に基づくと、特に東部で極端な乾燥域が広がっていたことが分かった。
地球観測研究センターの村上浩研究領域主幹は「火災が進みやすい方向や勢いなどを予想できれば対策を取りやすくなる」と話す。衛星による複数の画像を解析して火災で発生したすすを粒径の大きさなどから見極め、気流などの気象データと組み合わせる飛散予測も試みている。煙害の緩和に役立てるねらいだ。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は「地球温暖化が森林火災の増加を引き起こす」と指摘している。陸上にいる種の3分の2以上がすむとされる森林は生物の宝庫だ。生態系が変わるほどの深刻な森林の焼失は人間社会への影響も計り知れないだろう。対岸の火事と見過ごさず日本も森林火災を減らしていく施策を打ち出していく必要がある。
(安倍大資)
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