2020年3月14日土曜日

「飛び恥」でドイツの鉄道利用が倍増、日本企業に好機到来の理由

■出典: https://diamond.jp/articles/-/231505

高速道路・車社会のドイツにおいて、今「鉄道移動」が流行している。2030年までに、運行回数と乗客数は、さらに2倍になると予測されている。一方で、ドイツの列車は遅延に次ぐ遅延が起きており、駅ナカも実に簡素だ。日本の列車や駅のような、利用客がわくわくするサービスや仕掛けを期待したいところだ。ドイツの鉄道事情は今、どうなっているのだろうか。筆者はドイツ在住の経営者で、大の日本好きだ。日本とドイツをこれまで40回以上往復している。こうした立場から、日本の優れた鉄道のノウハウや技術が、欧州に受け入れられる可能性がとても高い理由を考察してみた。(独ストーリーメーカー社 共同代表 ビョルン・アイヒシュテット)

環境意識の高まりから
ドイツの鉄道利用は増加の一途

 ドイツ鉄道は自社だけで5700カ所の駅を運営している。ドイツ鉄道が乗客数26億人を記録したことからも、これらが賑わっていることがわかる。15年前と比較して、ほぼ10億人増加しており、増加のトレンドは続いている。環境問題の議論の高まりを受けて、飛行機や車での移動ではなく、より環境にやさしい鉄道へと移動手段がシフトしているためだ。
 直近での「鉄道移動」ブームは、気候変動対策を強く訴える「フライデー・フォー・フューチャー」運動の中心人物であるスウェーデンの高校生、グレタ・トゥーンベリさんに大きく影響されている。「温室効果ガスを多く排出する飛行機を使わず、鉄道を使おう」というグレタさんのポリシーに共感する若者が欧州で増え、飛行機で移動することは「飛び恥」と呼ばれるようになった。
 そうした中、フランクフルトやミュンヘン、ハンブルグなどの駅や鉄道は、今や毎日約50万人もの人々に利用されている。しかし、乗客にとってそこは必ずしも快適な場所とはいえないのが現実だ。
 問題は、清潔感の欠如や運航の正確さ、信頼性にある。ドイツ鉄道が発表している統計によると、74.9%の鉄道しか時間通りに運行していなかったという結果が出ている。ドイツでは「5分間程度の遅延は許容範囲」と認識されているため、その範囲内だと「時間通り」と見なされるにもかかわらずだ。
時間通りに運航する意識の欠如、チームワークではなく個人主義、プロセスを完成させるための方法が試行錯誤されていないことなど、原因は様々だ。

テクノロジーと「駅ナカ」
日本企業に2つのチャンス

「飛び恥」でドイツの鉄道利用が倍増、日本企業に好機到来の理由
ブームで利用客が増えるドイツの列車
 大きな原因の1つがテクノロジーの古さである。政府や鉄道会社もそれを把握しており、2030年までに1560億ユーロがインフラ投資される。そこで大きなビジネスチャンスを手に入れそうなのが、日本のテクノロジー企業である。なぜなら、鉄道やインフラ、監視システムなどは、日本製品のクオリティが他のどの国よりも高く、ドイツからの引き合いが見込めるからだ。
 日本がドイツにアドバイスできることは、他にもある。具体的には、時間の正確性、新しいビジネスのアイデアをもたらすことなどである。日本企業同士が協力し、こうした強みをドイツに対してアプローチするべきだ。ドイツの駅や電車は、日本の経験を必要としているのだ。
 問題は遅延に次ぐ遅延だけではない。駅構内が実に簡素で、利用客を魅了する仕掛けがないことが、2つ目の問題だ。朝イチの出張で何か食べるものを探しても、販売されているのはハムやチーズの乗った黒パンやプレッツェルといった、お決まりのメニューばかり。
 電車が遅れ、おいしいものも見つからない――。私はそんなとき、いつも日本の鉄道や駅が頭に浮かぶ。日本の鉄道や駅の素晴らしさを挙げたらきりがないが、列車運行の正確さ、列車内の綺麗さ、静かさは世界一と言っても過言ではない。
「飛び恥」でドイツの鉄道利用が倍増、日本企業に好機到来の理由
ミュンヘン中央駅の「駅ナカ」は、日本の駅と比べて簡素なイメージだ
 加えて、実に細かいところまで配慮が行き届いている。 新幹線を例にとると、各シートのテーブルの裏に列車全体のマップが描かれており、トイレの場所もすぐ把握できる。加えて、温かいコーヒーや駅弁、お土産まで車内販売で手に入る。
 日本の「駅ナカ」は、駅に行くこと自体を楽しくさせる工夫に溢れ、利便性もとことん追求されている。書店や雑貨店だけでなく、忙しい社会人が通勤途中にランチを買ったり、帰り道にお惣菜を買って帰ったりすることができるようなスーパーやコンビニまで充実している。すべてがSuicaやPasmoといった交通系のカードで決済できることも驚きだ。
 日本の駅ナカのワクワクするような世界観と鉄道インフラ技術こそが、欧州経済の中心地に必要とされているのではないだろうか。
 このように、最新テクノロジーや駅ナカの仕組みづくりで日本が強みを発揮できる可能性は高いが、海外から求められているのは製品やサービスそのものだけではない。全体としての「コンセプト」だ。
「製品ではなく、ソリューションを」は、近年しばしば耳にするキーワードである。日本とEUの間に結ばれた自由貿易協定も、日本の製品を以前よりも明らかに安価で欧州へ導入することを可能にしたばかりだ。その際、関連するサービスとの融合や準備なしでは、日本の美しい食やテクノロジーも中途半端のままに終わってしまう。完璧な鉄道システムや駅弁は、単にそれだけでは完結しないのだ。

日本食ブームで駅弁は絶好のチャンス
製品だけでなくコンセプトも輸出せよ

「飛び恥」でドイツの鉄道利用が倍増、日本企業に好機到来の理由
黒パンやプレッツェルといったドイツパンが、ドイツの駅で手に入る食事の定番
 たとえば2017年に、ドイツ鉄道がカールスルーエ駅にて試験的に実施し、ベルリン中央駅にも少しずつ広がりを見せている「ステーション・フード」と呼ばれるコンセプトがある。これは、乗客が駅の中でより本格的な食事を楽しめるようにするための諸々の取り組みを指すが、日本企業には、こうしたコンセプトをさらに発展させ、駅をトータル・コーディネートさせるノウハウがあるはずだ。
 欧州で日本食の人気が高まっているのも追い風だ。これまで「日本食」といえば寿司だったところが、ラーメンも浸透してきた。ミュンヘンやフランクフルト、ハンブルグなどにある日本食やラーメン店にも長い列ができており、ベルリンでは最初となる焼肉レストランも、予約が困難になってきている。日本食はトレンドになりつつあるが、「駅弁」のようなコンセプトはまだ知られていない。そうした日本食を、駅を経由して欧州市場へさらに浸透させることも可能なのだ。
 増加する列車利用も、相次ぐ遅延や退屈な駅ナカでは、一時のブームで終わってしまうかもしれない。今こそ、世界一ともいわれる日本の列車技術と駅の利便性、わくわくする駅の世界観をドイツや欧州に導入する絶好の機会といえよう。

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