2020年9月22日火曜日

脱炭素とエネルギー政策

 出典: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63911000W0A910C2KE8000/

脱炭素とエネルギー政策

(1) 発想の転換が必要な時代 京都産業大学教授 藤井秀昭

2020/9/17付
823文字
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東日本大震災まで、日本のエネルギー政策の基本的な考え方は、エネルギー地政学上の変化や気候変動対策に対応しながら経済成長を実現することでした。その目的を達成するため、安定供給や経済効率、環境適合を追求してきました。

大震災の原発事故は、こうした考え方に変化をもたらしました。そして新型コロナウイルスのパンデミックは、地球規模で社会経済活動の停滞を招き、エネルギーの需給や価格に多大な影響を及ぼしています。

変化に対応するには、人文知に学び、批判精神を持って通念にとらわれないことが重要です。新型コロナを機に、文明評論家のジェレミー・リフキン氏が説くような第3次産業革命が急速に進めば、政策の発想転換は不可欠となります。

経済学では、通念や通説への批判が新たな理論を生み出してきました。

アダム・スミスは「国富論」で、「個人は公共善に尽くすべきだ」とする当時の通念に逆らい、個々人の私利私欲の勤勉さに任せれば、「見えざる手」に導かれて社会的厚生が向上する、と説きました。世界大恐慌の惨状をみたJ・M・ケインズは、「有効需要の不足」という観点から古典派経済学(セイの法則)の世界観を批判しました。

2020年、新たな地球温暖化対策の枠組みである「パリ協定」の運用が始まりました。同協定は産業革命前と比べた世界の気温上昇を、1.5度に抑えることを目指しています。その実現には、50年までに先進国の二酸化炭素(CO2)排出をゼロにする必要があるとされます。足元では新型コロナの影響で経済活動が停滞し、CO2排出量は減少していますが、目標達成にはこの状態を毎年続けなければいけません。

いまも世界はエネルギー供給の8割超を化石燃料に依存しています。本気でエネルギー転換の舵(かじ)を切るには政策転換が不可欠です。この連載で、日本の脱炭素とエネルギー政策の転換を考えるヒントを提示できればと思います。

ふじい・ひであき 京都大学博士(エネルギー科学)。専門はエネルギー経済学。

(2) 変容するエネルギー安保 
京都産業大学教授 藤井秀昭

やさしい経済学
2020/9/18 2:00
848文字
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過去30年、世界ではエネルギー安全保障に関わる大きな出来事が相次ぎました。米ソ冷戦の終結、グローバリゼーションの進展、東日本大震災・原発事故、そして新型コロナウイルス危機などです。経済学者J・K・ガルブレイスが「通念の敵は観念ではなくて事実の進行である」と言ったように、エネルギー安全保障の通念や概念を変える事実の進行といえます。

エネルギー安全保障概念を規定する要素は、保障対象、リスクの種類、保障手段、保障主体の4つです。冷戦時は、石油代替エネルギーの開発や備蓄体制の構築、産油国との友好外交等で、石油の価格高騰・供給途絶リスクから自国を守ることが国家エネルギー安全保障の中心でした。

冷戦終結後は情報通信・輸送の技術進歩や、経済的・社会的規制の緩和で、地球規模でモノ・カネ・人・情報の「連結性」が強まりました。30年足らずで世界の人口は約25億人増え、エネルギー消費量は約6割増えています。発展途上国のエネルギー消費量は先進国を上回り、都市部でのエネルギー消費と温暖化ガス排出が増加しています。

ローマクラブは「成長の限界」(1972年)で、人口や天然資源消費などの幾何級数的増大に警鐘を鳴らしました。エネルギーに関する世界の現状を見ると、成長は終盤に差し掛かったのかもしれません。

重要な点は、エネルギー安全保障概念に関わるリスクの種類が過去30年で大きく広がったことです。越境汚染や気候変動などの環境問題、エネルギー転換技術の信頼性、資源ナショナリズム、核拡散やテロといったことだけでなく、水・食糧不足、感染症などのリスクから市民を守る人間安全保障とも連結するようになりました。エネルギーはすべての社会経済活動と関係性があるからです。

多元的概念に変容したエネルギー安全保障に対応する戦略枠組みが必要です。その選択肢としては(1)地域協力・多国間協力枠組みを積極的にエネルギー戦略に組み入れる(2)自国完結型のエネルギー戦略を指向する(3)双方を調和的に組み合わせる――ということがあげられます。

(3) グリーンディールの重要性 
京都産業大学教授 藤井秀昭

やさしい経済学
2020/9/21 2:00
835文字
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温暖化ガスの削減に向けた、長期と短期の政策について考えます。長期で重要なのは効率的な排出水準を実現し、社会的な総費用を最小化することです。

環境経済学では汚染物質の「限界被害」と「限界削減費用」で効率的排出水準を検討します。限界被害は汚染物質排出量が1単位変化したときの被害の変化を表します。また限界削減費用は1単位削減するために必要な費用です。

縦軸に限界被害と限界削減費用、横軸に排出量をとったグラフを描きます。多くの場合、限界被害曲線は右上がり、限界削減費用曲線は右下がりとなり、両曲線は交わります。この限界被害と限界削減費用が均等になる水準が効率的排出水準で、社会的な総費用の指標(総被害と総削減費用の和)が最小となります。

温暖化ガス対策では、汚染物質を温暖化ガスと読み替えればいいわけです。また新型コロナウイルスと読み替えれば、長期化したときの新型コロナ対策にも当てはまります。

短期で重要なのは「グリーンディール政策」です。基本的には再生可能エネルギー・脱炭素化部門への政府支出を増やし、乗数効果により国民所得の拡大を図るという政策です。

先進的に取り組む欧州連合(EU)は、2019年末に「欧州グリーンディール」を公表しました。コロナ危機の復興策でも、欧州排出量取引制度などを活用して中長期の脱炭素目標を引き上げ、経済復興とレジリエンス強靱(きょうじん)化を目指しています。

コロナ危機の影響で主要国際機関は、今年の世界の経済成長率を前年比約5~8%減、来年は同0~約5%増と予測しています。社会経済活動停止に伴う対策で世界の公的債務残高は増加し、機動的な財政出動は困難になるでしょう。明確なグリーンディール政策に基づく政府戦略はますます重要になります。

日本も、経済復興とエネルギー気候変動対策を同時に設計する必要があります。脱炭素やエネルギーレジリエンスに関する部門へ資源を集中し、生産・雇用を誘発する政策です。グリーンディール政策に基づく財政出動が求められます。

(4) 再エネを主力にする方策 
京都産業大学教授 藤井秀昭

やさしい経済学
2020/9/22 2:00
853文字
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日本の電力システム改革は1995年の電気事業法改正から始まりました。その後、電力広域的運営推進機関設立(2015年)、電力小売り全面自由化(16年)と進み、20年4月の発送電分離で電力自由化の新たな局面を迎えました。

既存の火力・水力・原子力発電による大規模集中型供給システムは、電力需要が旺盛な高度成長期につくられました。総括原価方式と規制料金による確実な投資回収が支える仕組みです。今後、電力システムは電源多様化と競争市場に移行しますが、その象徴が再生可能エネルギーです。

第5次エネルギー基本計画では、30年度の電源構成に占める再エネ(含む水力)比率を22~24%としています。再エネの主力電源化の便益は、エネルギー自給率向上と二酸化炭素(CO2)排出削減、分散型経済の自立です。

国は再エネ電源を競争電源とする目的で、12年に固定価格買い取り制度(FIT)を再エネ全般に導入しました。再エネ発電設備容量は年率20%超の勢いで増えましたが、電気使用者から一律に徴収する賦課金は、19年度で年間約2.4兆円(買い取り費用は同3.6兆円)に達します。

既に国内トップランナーの事業用太陽光発電コストは、キロワット時あたり10円未満です。市場価格に連動して補助金を上乗せするFIP(Feed in Premium)制度への移行を検討すべきです。事業用太陽光発電設備の維持点検・廃棄に必要となる費用の積立制度や、事業規律を継続的に検証する必要もあります。

再エネの分散型エネルギーシステムの拡張には、送電線運用ルール(優先給電・出力抑制等)の見直しや次世代型ネットワークの連系線増強が不可欠です。このほか、地域密着で地元のニーズを吸い上げ、問題解決を請け負うプロバイダーが参入しやすいような市場環境整備も急がれます。

また日本の電気事業法等では、国外との電力取引の規定は含まれていません。しかし、東アジアとの電力系統接続構想の進展や、水素貯蔵・次世代蓄電池の技術進歩次第では、電力の輸出入の是非を議論する必要もあるでしょう。



2020年9月21日月曜日

地球環境危機、今こそ行動変容を

 出典: https://www.nikkei.com/article/DGXMZO63795290U0A910C2000000/

地球環境危機、今こそ行動変容を 石井菜穂子東大教授 
科学記者の目 編集委員 滝順一

滝 順一
 
コラム(テクノロジー)
 
科学&新技術
 
編集委員
2020/9/21 2:00
2305文字
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石井菜穂子・東京大学未来ビジョン研究センター教授、グローバル・コモンズ・センターダイレクター

石井菜穂子・東京大学未来ビジョン研究センター教授、グローバル・コモンズ・センターダイレクター

地球環境問題の解決に向け社会を動かすことを目的に、東京大学は新たな組織「グローバル・コモンズ・センター」を設立した。初代のダイレクターに就いた石井菜穂子・東京大学教授は「ここ10年が人類の生存の分岐点。企業や個人の行動を変えねばならない」と話す。石井さんは7月まで途上国の地球環境問題への対応を資金援助する地球環境ファシリティ(GEF)の最高経営責任者(CEO)を務めてきた。

――センターは研究機関なのですか。

「私のアタマの中では研究機関ではない。これは五神真・東大学長の考えでもあるが、大学はアカデミズムに閉じこもっていてはだめで、社会を駆動しなければならない。企業や政策担当者、消費者、投資家らを巻き込んで社会を動かしていく仕組みを大学をベースにつくりたい。大学は中長期的に物事を考えることができ社会からの信頼もある。多様なアクターを巻き込むには適している」

「パリ協定も、持続的な開発目標(SDGs)も現状では(目標実現への)軌道をはずれている。このままでは目標達成は難しく、これまで通りのことをやっていてはだめだ。必要なのは行動変容だ。地球環境は自分とは関係がないと思っていた消費者や投資家が自分の問題であることに気づきアクションをとる。そうした変化を促す仕組みが必要だ」

「マーケティングの世界では初期の購買層を動かすことが(新商品の普及に)重要だとされる。それに似て、ある規模の人々が動けば社会全体が追随して変わる。社会全体に行動変容を起こさせるツールとなるようなインデックス(指標)やモデルを、センターは各国の研究機関とともに開発していく」

――インデックスやモデルとは。

「気候変動や森林破壊、水や土壌、海洋の保全のために必要な目標を守るうえで、世界の国々がどう行動しなければならないのかを示す共通のインデックスをつくり、各国の努力状況を比較できるようにしたい。インデックスの公表を通じ、行動への意思と目標達成への野心を持った企業に資金が集まる仕組みにできたらいい」

「また消費行動を通じて、やる気のある企業にメッセージを送れるようにしたい。例えばファッション産業は商品価値を守るため在庫品を燃やすといった行為からサーキュラーエコノミー(循環型経済)を指向する運動のターゲットとされてきた。しかし最近はTシャツなどのファストファッション業界でも高級なハイエンドファッションの世界でもサステナビリティーに関心が集まっている。消費者に響けば企業の行動は変わる」

「インデックス作りはジェフリー・サックス米コロンビア大学教授がディレクターを務める持続可能な開発ソリューション・ネットワーク(SDSN)などとともに取り組む」

「国連の持続可能な開発目標(SDGs)をプラネタリー・バウンダリー(地球環境の限界)の中で実現させるためにはどういう道があるか、モデルを開発し道筋を示したい。これは独ポツダム気候影響研究所のヨハン・ロックストローム所長らとともに進める」

――新型コロナウイルス感染症のパンデミックから社会経済を回復させる道筋に関し、環境重視の道を選択する「グリーンリカバリー」の議論が欧米では活発ですが、日本では政治課題として浮上しない。

「コロナ禍の根本的な原因は、人間社会と地球環境の衝突にあるという認識が海外では強い。これまで自然の生態系が保たれた場所に人間の生活領域が広がり、経済システムが地球の限界を超えてしまった証左だと考えられている。その点で気候変動とコロナ禍の根っこは一緒だ。根本的な解決はワクチンではなく、自然と人間の関係を見直し、本来あるべきすみ分けを取り戻すことだ」

「日本ではそうした根本に立ち戻った議論が少ない。何をどうリカバリーするのか。大元を考えないと、『オールドノーマル』にただ戻るだけだ。在宅勤務が普及するなどの変化は望ましい動きではあるかもしれないが、それが『ニューノーマル』が目指すべき姿とは思えない」

「グリーンリカバリーを目指さないと、私たちは生き延びられないという認識は世界のリーダーの間で共有されている。脱炭素で言えば、2050年はどんな世界になるのか。この10年が将来を決める分岐点であり、これから5年間で(温暖化対策を徹底し温暖化を回避する)道筋をつけなければいけない。そうした切迫した気持ちが世界にはある。日本ではそれが感じられない」

「低炭素という言葉には我慢を強いるイメージがありよくないとの意見も聞く。低炭素ではなく炭素をリサイクルさせる。それが人類にもよいし商機にもなるし生活にもよいと、グリーンリカバリーのありうべき姿を描くのも私たちの仕事だ。Needed(必要とされる)からPossible(可能である)、Desirable(望ましい)まで3拍子を示すことが行動変容につながる」

■取材を終えて

石井さんは7月まで米ワシントンDCを中心に、GEFのCEOとして世界中を飛び回って持続可能性の大切さを訴えかけてきた。活動の中で感じたのは「日本の声が聞こえてこない」ことだ。日本にも活発に国際舞台で発言する人はいるが、ごくわずかで、地球環境問題を議論し行動する「主要なプレーヤーとして認識されていない」

米国はパリ協定から脱退を表明するなど気候変動対策に後ろ向きの姿勢が目立つが、「トランプ大統領が米国だと思ってはいけない」とも。大統領は米国の一部を代表する声だが、非常に多様な意見があり、世界の現状を見て企業や都市はいま何をすべきか考えているリーダーがたくさんいるという。

12月に予定される東大主催の国際会議「東京フォーラム」をセンターのお披露目とする予定だ。

2020年9月17日木曜日

2030年における日本の再エネ比率27%。10年間で費用3割減を想定

 出典: https://www.denkishimbun.com/sp/78683

2030年における日本の再エネ比率27%。10年間で費用3割減を想定

英ウッドマッケンジーが予測。卸市場の安値も追い風

2020年9月17日

 英コンサルティング会社のウッドマッケンジーは8月19日、2030年の日本の電源構成に占める再生可能エネルギー比率が政府目標を上回る27%に達するとの予測を発表した。今後10年で風力発電や太陽光発電のコストが30%以上下がると想定。卸電力価格も安定的な推移が続き、政府が電気料金を高騰させずに支援策を展開しやすいと見込む。20~30年の太陽光、風力への総投資額は1千億ドル(約10兆5千億円)超と試算した。

 19年の電源構成に占める再生可能エネルギー比率は19%。政府が長期エネルギー需給見通しで示した30年度の目標は22~24%となる。ウッドマッケンジーは太陽光と風力だけで30年に18%以上を占めると予測した。

 一方、石炭火力もコストの低さから30年時点で33%と19年に近い水準を維持すると想定した。ガス火力は19年より約10ポイント低い28%でピーク対応の側面が強まると見通す。不確実性が高い原子力は30年に10%とした。

 再生可能エネルギーへの投資を巡っては卸市場価格との関係にも着目した。既に太陽光や風力の比率が55%に達した南オーストラリアでは価格が急落し、投資にも停滞が生まれると予測。まだ10%に満たない日本では影響が限られるため、比較的安定して推移すると見込んだ。

 20年の日本卸電力取引所(JEPX)スポット価格は、電力需要の低迷や燃料価格下落などが重なり低水準で推移してきた。ウッドマッケンジーでアジア太平洋地域の電力・再生可能エネルギー研究責任者を務めるアレックス・ウイットワース氏は、この状況が「日本にとって追い風」と指摘する。

 消費者が支払う電気料金を高騰させずに太陽光や風力の比率を引き上げられるとし、その実現に向けて「今後10年は政府の支援策が重要になる」との見方を示した。

 また、同社は日本の水素戦略も分析した。政府は再生可能エネルギー由来の「グリーン水素」について、30年に1キログラム当たり3ドルへの低減を目指す。これには同社が予測した30年時点の太陽光と風力のコストをさらに37%下げる必要がある。

 30年に燃料電池自動車(FCV)80万台という目標達成も難しいと指摘し、化石燃料由来の「ブルー水素」輸入などあらゆる選択肢を追求することになると予想した。

電気新聞2020年8月20日




2020年9月8日火曜日

「浮体式」の風力発電、欧州企業が攻勢

 出典: https://www.nikkei.com/article/DGKKZO63554870X00C20A9TJ1000/

「浮体式」の風力発電、欧州企業が攻勢 日本勢、リード許す恐れ 

2020/9/8付
801文字
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風車を海に浮かべる「浮体式」と呼ぶ風力発電で欧州のエネルギー企業が攻勢をかけている。仏エンジーや北欧石油大手のエクイノールがそれぞれ欧州で事業化に着手。設備を海底に固定する従来主流の「着床式」に向かない海域にも広く進出する狙いだ。一方、日本勢は規模面などで実績に乏しく、欧州勢にリードを許すおそれがある。

エンジーやスペインの再生可能エネルギー大手EDPリニューアブルなどが出資する発電事業会社が7月、ポルトガル沖で浮体式のプラントを稼働させた。出力は計2万5000キロワット。両社はフランスでも2022年に計2万8000キロワットの浮体式を稼働させるプロジェクトを計画する。

エクイノールは22年にもノルウェーで、合計出力が8万8000キロワットの浮体式プロジェクトの稼働を予定。8000キロワットの風車を11基整備する。

洋上風力の導入で先行する欧州の沿岸は浅瀬が多く、着床式が主流だが適地が減ってきた。ウインドヨーロッパ(欧州風力エネルギー協会)によると、洋上風力への投資は16年の200億ユーロ(約2兆5000億円)で頭打ちになり、19年には60億ユーロまで減少。状況打破の新たな手段として期待がかかるのが浮体式だ。

国際再生可能エネルギー機関(IRENA)によると、30年までに世界で3000万キロワット分の浮体式が導入される見通し。50年には世界の洋上風力の15%を占めるという。

日本勢も浮体式の開発に注力する。海底の起伏が大きい日本やアジアでは浮体式が有効とされ、日本では着床式に比べ導入可能な場所が約5倍あるという。福島県沖では丸紅や東京大学などが13年末に実証実験を開始。戸田建設も13年から長崎県沖で実証に取り組む。

ただ欧州に比べて規模は小さい。福島県沖で稼働していた7000キロワットの風車は不具合が多く、今年5月から撤去に向けた作業が進んでいる。世界をリードするレベルまで至っていない。



米最大の豚肉生産会社、30年までにCO2排出「マイナス」へ

 出典: https://forbesjapan.com/articles/detail/36901

米最大の豚肉生産会社、30年までにCO2排出「マイナス」へ


米豚肉生産最大手のスミスフィールド・フーズは、2030年までに二酸化炭素(CO2)を排出量以上に除去するカーボン・ネガティブをめざすと発表した。米国の食肉加工業者として初の排出量純減を達成し、環境への負荷軽減に向けた業界の取り組みをリードしていく考えだ。

「農業の未来は環境フットプリントを最小限に抑えることにある」。ケネス・サリヴァン最高経営責任者(CEO)はそう断言し、「当社にはその規模からして、先導していく責務がある」と力を込める。

実際、米4位の食肉加工業者であるスミスフィールドによる取り組みは、業界全体の変化につながる可能性もある。農業は米国の年間温室効果ガス排出量の1割を排出し、業界別では4番目に大きい排出元となっている。畜産は農業による排出量のほぼ半分を占め、とくに牛の畜産によるものが多い。

中国の万洲国際(WH)グループ傘下の同社はこの目標を、排出量を相殺するカーボンクレジットの購入に頼らずに、米国内の40工場全体で実現することをめざしている。これらの工場には全米最大規模の食肉加工工場も含まれる。

具体的には、
▽豚にやる飼料を変えてメタン放出量を減らす
▽自社で所有する農場で土地を耕さない不耕起栽培を導入し、土壌の健康を回復させる
▽再生可能エネルギー事業を拡大する
▽自社の流通経路を効率化する
──といった方策を実施する。冷凍設備や照明、各種機器による電力消費量も「積極的に減らす」計画だ。

「ビッグ・アグリカルチャー(大型の農業生産)はその規模と範囲から批判を浴びることもあるが、大きな強みもある。たとえば、(環境対策などに)費やすことのできる資本(の大きさ)などだ」とサリヴァンは言う。スミスフィールドはこの20年で再生可能エネルギー事業に計5億ドル(約530億円)超を投じてきたという。

米国の環境シンクタンク、世界資源研究所(WRI)の専門家であるリチャード・ウェイトは、スミスフィールドがカーボン・ネガティブの目標期限を2030年としたのは「非常に野心的」だと評し、同年までに達成するには今から多くの取り組みを進めていく必要があると指摘している。



2020年8月17日月曜日

EVは本当に環境に優しいか?VWが発表したCO2排出量の衝撃レポート

 出典: https://diamond.jp/articles/-/245304

EVは本当に環境に優しいか?VWが発表したCO2排出量の衝撃レポート


VW・ID.3 9月からデリバリーがスタートするバッテリー電気自動車(BEV) Photo:VW

 EU(欧州連合)自動車市場に、電動車は普及するか――。

 いま、いちばんの懸念はCOVID-19(新型コロナウィルスによる感染症)蔓延による経済活動の停滞が自動車市場にどの程度の影響を与えるか、だ。ACEA(欧州自動車工業会)は、今年の乗用車市場は前年比25%減の960万台になると予想しているが、JATOなど市場調査会社は南欧のイタリア、スペイン、東欧のポーランドなどでマイナス幅が大きくなると見ている。理由は「財政的に見て、自動車市場を下支えできるような補助金の交付が難しいから」である。

 景気回復も自動車需要底上げも、国による予算措置が不可欠だ。ドイツは6月3日にBEV(バッテリー電気自動車)への連邦政府補助金を大幅に積み増す決定を下したが、この前後にVW(フォルクスワーゲン)はアピールを行った。

 同社は昨年4月以降、BEVブランドとして立ち上げる「ID」についてさまざまな情報公開を行っているが、5月にはジャーナリスト向けのメールマガジンの中で2019年4月に公表した「BEVのCO2(二酸化炭素)排出」を再び紹介した。〝環境に優しい〟と絶賛されるBEVにとって、ある意味で弱点をさらけ出すような内容である。

 VWは9月からIDブランド最初のBEVである「ID.3」の納車を開始するが、ドイツ政府がCOVID-19リカバリーの経済対策を検討するタイミングでリマインドしてきた点にVWの意図を感じた。

車両製造段階の
CO2排出量

 昨年4月から11月の間にVWが順次公開したデータから、何点かを紹介する。まず、BEVのCO2排出量だ。

VWのディーゼル車(7thゴルフ)は車両製造段階のCO2排出相当量は29g/㎞これに対して、7thゴルフのBEV仕様であるeゴルフは57g/㎞だと公表した。同モデルで通常のディーゼル車とBEVを比較した場合、BEVは製造段階で約2倍のCO2を排出しているというのである。

 次に、エネルギー製造段階でのCO2排出。これは一般に、ウェル・トゥ・タンク=油井から燃料タンク(バッテリー)までと呼ばれ、WtTと記される計算値である。

 e-ゴルフとゴルフ・ディーゼルをそれぞれ20万km走らせたときのCO2排出計算値は、ディーゼル車で使う軽油が11g/㎞風力発電による電力が2g/㎞ドイツ国内の発電穂方法平均だと85g/㎞、EU加盟国の発電方法平均では62g/㎞、中国の発電方法平均だと126g/㎞というものだった。

 そして、クルマが走行する段階で排出するCO2、いわゆるタンク・トゥ・ホイール=燃料タンク(バッテリー)から車輪までと呼ばれる領域=TtWと前述のWtTのCO2排出量をすべて合計したものが、製造から使用までのトータルのCO2排出量である。

新型ID.3は
カーボンニュートラル生産

 VWによると、現在「ID.3」を製造するツヴィッカウ工場はカーボンニュートラル生産であるという。つまりTtWのCO2排出はゼロになる。しかし、廃棄やリサイクルまで含めた「すべての段階を合計するとゼロにはならない」と説明している。

 7thゴルフのディーゼル車はトータルのCO2排出量が140g/㎞になる。同じボディを使うeゴルフの場合、風力発電だけを利用すれば車両製造段階とエネルギー製造段階の合計である59g/㎞で済むが、褐炭・泥炭・CNG(圧縮天然ガス)による火力発電が30%ほど含まれるドイツ国内の電力を使うと142g/㎞になる。

 EU平均の発電ミックスによる電力では119g/㎞だ。EU平均でのCO2排出量が下がる理由は、再生可能エネルギーによる発電と原子力発電の比率が増えるためだ。

 一方、米国の電力を使うとeゴルフはドイツの電力ミックスと同じ142g/㎞になる。しかし、石炭火力が半分を占める中国での電力を使うと一気に183g/㎞となり、ディーゼル車を上回ってしまう。VWが公開したデータを読む限り、ドイツ国内の現在の発電インフラを使うと、BEVのLCA(ライフ・サイクル・アセスメント)的視点に基づいたCO2排出量はディーゼル車とほとんど変わらない。米国も同じだ。中国ではディーゼル車のほうがはるかにCO2排出は少なくなる。

ライフサイクルアセスメント(LCA)
という考え方

 ここで気をつけなければならない点は、車両製造段階、エネルギー製造段階、走行段階のすべてを加味したLCA視点によるCO2排出量の計算結果は、必ずしも回答はひとつではないことだ。どのようなデータを使用するかで変わる。

 さらに、厳密にLCAを計算するとなると、車両の廃棄・解体段階でのエネルギー消費も含めなければならない。VWはそこまでは公表していないが、重要なヒントとなるデータを公開している。ID.3を1台製造する場合のCO2排出分担である。

 ID.3はゴルフとほぼ同じサイズのCセグメント乗用車だが、車両重量は航続距離330kmの標準仕様で約1.7トン。ゴルフのエンジン車比で約300㎏重い。重量がかさむ主な理由は、LiB(リチウムイオンバッテリー)である。

 VWは「ID.3はカーボンニュートラル生産」と説明しているが、それは植林などを行って最終的に再計算した時点でのカーボンニュートラルであり、素材や部品別にCO2排出比率を見ると、ボディなどに使われる鋼材(スチール)は18.4%、エンジンやサスペンションなどの鋳物に使われるアルミ合金は5.7%、電動モーターは4.8%、モーター内に使われる磁石は2.2%、インパネなどの樹脂部品は3.3%、貴金属類とガラスはそれぞれ1.3%である。そして注目は、車両製造段階で発生する43.3%がLiB製造時に発生する点だ。

 製造段階でCO2発生量が多い素材や部品は、分解して再び資源としてリサイクルする場合のCO2発生量も傾向として多くなるというデータがある。LiBのような化学反応電池を大量に搭載するBEVは、廃棄・再利用までを含めたLCA計算をすると、かなり不利になる。

ドイツ政府は
BEVの購入補助金を増額

 しかし、今年5月にドイツ政府は、COVID-19で落ち込んだGDPを押し上げるための経済対策について、自動車分野ではBEV補助金に集中し、通常エンジン車への購入支援は見送った。車両価格4万ユーロ以下のBEVへの補助金を9000ユーロ(約109万円)に増額したが、ガソリン車とディーゼル車については自動車業界の要望を却下し、スクラップインセンティブ(新車に買い替えた場合の補助金)を採用しなかった。

 メルケル首相が率いるキリスト教民主同盟と連立政権を組むドイツ社会民主党の中にも「エンジン車への補助金を認めたら、緑の党から政権批判が出て混乱する」との意見があったと、現地では報道されている。VWはジャーナリストに対し「ドイツ国内の電力を使う限り、現状ではディーゼル車もBEVも排出はそれほど大きくは変わらない」というデータでアピールしたが、その声は結果的に届かなかった。

CO2 削減量は
差し引きすると大きくない

 7月に入って、BEVのLCAベースCO2排出量について、ドイツ国内のエンジニアリング会社などが反撃を開始した。さまざまなロビー活動を行なっている。

 その中のひとつが、ドイツのFVV(内燃機関の研究所)によるレポートだ。「2020年代に1050万台のBEVが普及すると、CO2排出削減効果は合計7380万トンになるが、その一方で発電や新たなインフラ整備で6990万トンのCO2が発生する」という。BEV普及を進め、再生可能エネルギーによる発電を順調に増やしても「差し引きで390万トンの削減にしかならない」と結論付けた。

 これもひとつのシミュレーションである。

 EU政府がBEVの排出をLCA視点にしないのはなぜだろうか。「原発は環境負荷無限大」とのコンセンサスは取れている。しかし原発由来の電力は排出ゼロである。2023年にEU政府は、将来の自動車排ガス規制のためのレビューを行う。現状では、このレビューでLCA視点が導入される可能性は低い。