2021年1月6日水曜日

進化の道変えた原発 小型炉に浮かぶ「現実解」

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進化の道変えた原発

小型炉に浮かぶ「現実解」

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ニュースケール社が計画する小型原発の完成イメージ。原子炉は地下に格納する

新政権発足後、即座にパリ協定に復帰すると宣言した米国のバイデン次期大統領。2兆ドル(206兆円)を投じる気候変動対策には原子力発電所の活用も盛り込む。力点を置くのが、安全性が高いとされる小型原子炉の開発だ。

米国では2007年創業のスタートアップ、ニュースケール・パワーが脚光を浴びる。標準的な炉は100万キロワット級だが、同社が扱うのは数万キロワット。外観のイメージ図に原発特有の巨大な建屋や冷却塔はなく、体育館のような施設が並ぶ。

丸ごとプールに

配管が複雑に絡み合うこれまでの原発の雰囲気はない。数万キロワット級の原子炉を5~6本まとめてプールに沈め、発電する。水につかっているから事故で電源を喪失しても炉心を冷やしやすい。核のごみの発生も今までより少なく抑えられる。

昨年夏には12の炉で米原子力規制委員会の設計審査を終えた。「原子炉の大きさもコストもお客様の相談に乗ります」。1基の規模は小さくとも、複数の炉を連結すればより大きな電力を生み出せる。同社は政府機関や企業などにオーダーメードで原発を提供する。設置を拒む地域もあるが、万一事故を起こしても影響を受けるエリアが狭く、送電網がない地域でも設置できる利点を強調する。

ロシアでは海に浮かべた小型の原発が威力を発揮する。国営企業のロスアトムが「原子力砕氷船」に積んでいた小型炉を浮体式の海上原発に転換。海上の利を生かし、電力網の脆弱な発展途上国などに展開する。

原発は一大消費地の電力をまかなえるよう、出力を大きくして効率的に供給する方向に進化してきた。大きくなると複雑で制御しにくい。いま、原発は必要なだけの電力を安全に供給する小型化を探る。

米ロが原発の技術を磨くのは再生可能エネルギーをフル活用しても、電源に占める割合は5~6割にとどまるとの認識が広がっているからだ。水力で9割をまかなえるノルウェーのような国は別格。50年目標は英国で65%、米国で55%とされている。欧州では脱石炭という要請もあり、二酸化炭素(CO2)の排出がない原子力に自然と目が行く。

日本も似た状況にある。再生エネには50~60%しか頼れず、残りの穴埋めが課題だが、立ち位置は曖昧だ。政府が昨年末にまとめたグリーン成長戦略では、原発単独でどこまで手当てするか明確にしなかった。50年時点の電源構成は「原子力と火力で合計30~40%程度」。既存原発の再稼働もままならず、新増設も封印する現状を映す。

増す火力コスト

では火力に頼れるかというと、心もとない。東日本大震災後、原発がゼロになるなか、石炭火力を電源全体の3割まで高めたが、カーボンゼロ実現には脱却は待ったなし。クリーンな電源として使い続けるにはCO2の排出抑制策が必要になる。

政府は火力で生じるCO2を回収・貯留するCCSを進める。代表的な地中貯留の技術は1トンあたり約7千円かかる。現在の石炭火力の発電コストは1キロワット時12.3円だが、CCSの費用が乗ると最大19円程度に跳ね上がる。10.1円の原発との差はさらに広がり、商業利用には相当なコストダウンが求められる。

日本は欧州と比べると再生エネの利用で地理的な制約を受けやすい。山が多く、洋上風力に適した海域は狭い。経済性を考えるともうひとつの安定電源を頭に入れておく必要がある。原発は福島での事故から足踏みが続いたが、カーボンゼロに向けてもう思考停止は許されない。使用済み核燃料の問題も含め、今後とるべき道について合意を探るときだ。




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