2021年1月5日火曜日

再生エネは「もうかる」事業 私の見方 名古屋大教授・天野浩氏

 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67867010U1A100C2EE8000

再生エネは「もうかる」事業 
私の見方 名古屋大教授・天野浩氏

2021年は日本の脱炭素に向けたスタートの年にしなければならない。みんなが脱炭素という共通目標を目指して取り組む。菅義偉首相が高い目標を掲げたことは非常にいいことだ。カーボンニュートラルに向け、一歩踏み出す時だ。1面参照)

再生可能エネルギーはコストが高く、「金持ちの道楽」というイメージを打破したい。再生エネは「もうかる」と強調したい。

名古屋大の分析によると、50年のカーボンニュートラル実現には165兆円かかる。年平均5.5兆円だ。再生エネ投資でエネルギーを国産化できれば、資源の輸入が減る。お金が国内で循環するようになれば経済にプラスだ。33年から単年度で黒字化し、43年に累積赤字も黒字転換できると考えている。

実現にはイノベーションが欠かせない。青色発光ダイオード(LED)は結晶ができて1兆円市場になるまで30年近くかかった。50年までとなると今から準備しないと間に合わない。

私たちは半導体の新材料として省エネが期待される「窒化ガリウム」の研究を進めている。電力を制御する世界中のシリコン製素子を窒化ガリウムに置き換えれば、10%の消費電力削減になる。電気自動車(EV)のモーター制御に応用したら最大65%の電力消費低減に成功した。エネルギー効率はあがらないとの悲観論もあるが、企業や研究者にチャレンジしてほしい。

窒化ガリウムは再生エネの拡大にも貢献できる。洋上風力発電向けに高圧の直流送電から効率よく交流変換できる装置を開発した。試算では窒化ガリウムのデバイスで余った電気の37%をワイヤレス給電に回せる。余剰電力をEVやドローン、スマートフォンなどの充電に使えれば、効率も利便性も上がる。超低消費電力で大容量の高速通信にも貢献できると思う。その研究にも取り組み始めた。

50年ゼロにいるのは技術的な進歩だけではない。オフィスや行政システムの効率化も必要だ。官庁も自治体も独自のシステムを導入し、規格がバラバラで融通が利かない。規格を統一すべきだ。競争は大事だが、協調も重要だ。

国の将来ビジョンを意識しながら課題を解決するには、大学などでの人材教育が大切になる。青色LEDで30年かかったプロセスを10年以内に実現するような人材を育てたい。修了生が企業の中枢を担えば世の中が変わるだろう。

日本のものづくり企業は技術で先行し、最初はもうけが大きくても、価格競争になってもうけが少なくなって諦めてしまう。日本で新技術が生まれる確率は高い。次々と新技術を生み出すのが理想だ。「自分はできる」「GAFAを超えるんだ」というマインドセットを持つ若い人たちを増やすことが重要だ。

照明分野は10年ごろに私たちが革新した。この先、25年ごろに生活環境を革新し、30年ごろに自動車などのモビリティーを革新する。そして50年にはエネルギーの需要と供給を高度に管理するIoE(インターネット・オブ・エナジー)とカーボンニュートラルを実現させる。その意気込みで研究している。大学で脱炭素につながる新技術が生まれたら、それを使ってくれる企業が増えてほしい。



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