2021年1月7日木曜日

NEDO、脱炭素社会を実現するための「太陽光発電開発戦略2020」を公表

 https://news.mynavi.jp/article/20210107-1623551/

NEDO、脱炭素社会を実現するための「太陽光発電開発戦略2020」を公表

2021/01/07 06:00

著者:丸山正明
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経済産業省(経産省)傘下の新エネルギー・産業技術総合機構(NEDO)は2020年12月28日、「太陽光発電開発戦略2020(NEDO PV Challenge2020)」を策定し、公開した。

この「太陽光発電開発戦略2020」は、政府が作成した2050年までに“カーボンゼロ”の脱炭素社会を実現する具体的な各施策を支えるために、その1つとして太陽光発電の大量導入社会を実現する技術戦略として新たに策定したもの。

日本で2050年までに太陽光発電の大量導入社会を実現する技術・事業戦略として、高付加価値化事業の創出やその立地条件と系統制約の顕在化、安全性向上などによる循環型社会(特に信頼性とリサイクルなどで)の構築に向けて、発電コストの低減への課題を提示し、2050年までに太陽光発電の大量導入を実現する新分野を特定し、その技術開発戦略を提言したもの。

日本では経産省とNEDOの先導によって、2012年から太陽光発電の固定価格買取制度(FIT)を策定したことによって、日本国内では太陽光発電事業が加速し、その後も太陽光発電モジュールの低価格化が進み、かつ価格競争力を持つ海外企業の参入などによるシュア拡大によって、国内での太陽光発電事業は拡大した。

今回の太陽光発電開発戦略2020の策定では、現状での太陽光発電事業での技術課題に加えて、2050年の循環型社会の実現に向けた新しい技術課題の設定を加え、かつ太陽光発電価格を再評価し、「“発電コストの低減”と同時に太陽光発電の大量導入社会実現に向けた課題を包括的に検討している」と解説する。

その上で、日本(企業など)の太陽光発電産業の強みを踏まえて、日本での新産業・市場創出の視点を盛り込んだと、その狙いを語る。

この太陽光発電開発戦略2020が伝えるポイントは、高付加価値事業の創出を訴え、立地制約と系統制約の取り組みの方向性を伝えている。まず、高付加価値事業の創出のためには、導入形態を多様化し新分野の開発として「建物の側面、重量制約のある屋根、車などの移動体」向けなど多様な太陽光発電モジュール開発とその事業化を提言し、太陽光発電する領域を拡大する事業を提言している。同時に、車などの移動体に太陽光発電モジュールを搭載することによって、電気自動車の航続距離の増大や充電回数の低減などの新しい価値創造も重要と示唆している。さらに、太陽光発電が変動電源である点を考慮した主要電源への影響緩和(需給の調整)への取り組みの重要性を示唆している。

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    「太陽光発電開発戦略2020」(NEDO PV Challenge2020)に紹介されている、車などの移動体に太陽光発電モジュールを搭載した事例 (出典:NEDO)

最近の豪雨や大型台風による太陽光発電装備への破損や火災発生を防ぐ、安全性強化の技術開発の重要性を訴え、太陽光発電事業の長期安定性電源化は循環型社会システム構築の基盤となるとも示唆している。

導入形態を多様化と新分野の開発では、市場ごとに太陽電池モジュール・システムの最適化の技術開発と事業戦略を立てることが不可欠と指摘している。

NEDOのWebサイトには、太陽光発電開発戦略2020の全文が公開されている。詳細な各分野での技術分析と事業戦略などは解説されている。




21世紀を水素の世紀にするカギは電気、気候変動対策の主役に躍り出た水素を考える

 https://wedge.ismedia.jp/articles/-/21803

»著者プロフィール

 米国の思想家、環境活動家として知られるレスター・ブラウン氏が、米国アリゾナ州の砂漠地帯に風力、太陽光発電設備を設置の上需要地に送電を行い、電力需要が落ち込む時には余った電気を使い水を電気分解(電解)し水素に転換、貯蔵すれば良いとの考えを述べていたことがあった。残念ながら、このアイデアの実現は現時点ではコスト面から難しい。日照時間も長く、風量もあり再生可能エネルギーの発電コストが低くなったとしても、余剰電力による稼働では電解設備の利用率が低くなる。つまり、いつも発電できない再生可能エネルギー利用では高額な電解設備の単位当たりの減価償却費が高くなるため製造した水素のコストも高くなってしまう。

 水素をロケット用燃料に初めて使用した米国政府も、徐々に水素に関心を失い最近ではエネルギー省も水素技術関連予算の減額を続けていた。だが、バイデン次期米大統領は、今後4年間で2兆ドルをインフラ、エネルギー分野など気候変動対策に投じるとしている。燃やすと電気を作るが二酸化炭素(CO2)を排出しない水素はその中で重要な位置づけを得ており、製造コスト削減策には高価な電解設備価格の引き下げも含まれている。電解設備の投資額が大きく引き下げられることになれば、レスター・ブラウンのアイデアも実現するだろう。

 いま、日本、欧州、中国など世界の主要国は、2050年温室効果ガス純排出量ゼロ実現には水素利用がカギになると考え、利用拡大を図ると同時にコスト引き下げに乗り出した。

(Petmal/gettyimages)

温暖化対策の主役に躍り出た水素

 水素は利用しても水しか排出しないクリーンなエネルギーだが、つい数年前まで、水素をエネルギーとして注目していた消費国は、東アジアの日本、中国、韓国が主体で、供給国としては大規模な褐炭を抱える豪州が中心だった。褐炭は低発熱量で水分が多く輸送コストが高くなることに加え、自然発火する可能性が高いから、そのままでは輸出できない。石炭は水分が高いほど発火し易い。かつて日本企業が豪州から褐炭のサンプルを大量に輸入したところ輸送途上に自然発火したこともあった。褐炭をガス化し現地で水素の形に変え、液化により体積を縮小すれば、輸送可能になり輸出品目に変えることが可能だ。

 いま、水素を取り巻く事情は変わった。日本を含め多くの国が宣言した2050年温室効果ガス純排出量ゼロを達成するためには、水素の活用がカギになると主要国が考え始めたからだ。世界のCO2排出量を見ると、電力部門が40%以上を占めている。電力部門は低炭素電源の導入でCO2排出量をほぼゼロにすることが可能だろう。

 排出量の約25%を占める輸送部門も電気自動車の導入により乗用車の排出量をゼロにすることはできるかもしれないが、電池の重量を考えるとトラック、ディーゼル列車、船舶、航空機の電動化は難しい。また約20%を占める産業部門では、高炉利用の製鉄のように原料、還元剤として石炭を利用し製造工程でCO2を排出する場合には電化を行うことは困難だ。

 結局、電化を多くの部門で進めることによりCO2をある程度削減することは可能だが、ゼロを達成することは電化だけでは不可能だ。電化できない分野での対策として水素が欧米諸国でにわかに注目を浴びることになった。特に、欧州主要国は水素利用に前のめりと言ってよい状態にある。もちろん、水素を利用するには貯蔵、輸送を含め設備の大きな変更が必要になることは、たとえば、自動車では燃料電池が内燃機関に代え必要になることを見れば分かる。設備をどのように更新、新設するかも大きな課題だが、競争力のある水素をどのように製造するかは、CO2排出量に加えエネルギーコストにも影響を与え、産業、私たちの生活にも大きな影響が及ぶ問題だ。

色とりどりの水素の作り方

 水素製造には様々な方法がある。豪州の褐炭から製造する方法にみられるように、石炭、褐炭、天然ガスなどの化石燃料から製造するのが、現在は主流だ。水素は化学プラントなどで使用され、世界では年間7000万トンが製造されている。国際エネルギー機関によると、その4分の3は天然ガスから製造され、世界の天然ガス消費量の6%を占めている。さらに、中国を主体に石炭からの製造も多く、世界の石炭消費量の2%を占める。いま水素の90%以上は化石燃料から製造され、製造に伴うCO2の排出量は8億3000万トン。日本に次ぎ世界第6位の排出国ドイツの排出量を上回っている。

 天然ガスから製造する水素をグレー水素、石炭から製造する水素をブラック水素、褐炭からの水素をブラウン水素と呼ぶことがある。色で水素の原料を推測可能だが、化石燃料から水素を製造するのではCO2の排出量を抑えることは難しい。たとえば、天然ガスから1kgの水素を製造するのに伴い10kgのCO2が排出される。石炭を利用し製造する際には、その2倍近いCO2が排出される。

 天然ガスからの水素を利用し、水素1kgで125km走行可能な燃料電池車(FCV)を走らせると、走行時にはCO2の排出はないものの、水素製造時の排出量を考慮すると1km当たり80gのCO2が排出されることとなる。結果としてハイブリッド車を少し下回る排出量となってしまい、温暖化対策には大きくは寄与しない。そのため、主要国はCO2排出を伴わない水素製造方式に力を入れ始めた。その一つは化石燃料から製造するが、排出されるCO2を捕捉、貯留するCCSと呼ばれる設備を設置することだ。この水素はブルー水素と呼ばれる。

 米国、欧州連合などが力をいれているのが、CO2を排出しない電源を利用し水素を水の電解から製造する方式だ。再生可能エネルギーを利用し製造すればグリーン水素と呼ばれ、原子力を利用し製造すればパープル水素(パープルはバイオマスから製造する水素を指すこともある)と呼ばれる。水素製造への原子力の利用には、欧州では支持するフランス、フィンランド、オランダなどと反対するオーストリア、デンマークなどで意見が分かれている。

水素の製造コスト

 水素のコストを考える際には、製造に加え輸送、貯蔵などのコストも考える必要があるが、ここでは製造コストが水素製造方法によりどのように変わるのか、さらに将来水素がエネルギーで大きな位置を占めることが可能なコスト競争力を持つことになるのか考えてみたい。

 日本の水素ステーションで販売されている水素の価格は1kg当たり1100円(税込み)だ。FCVの走行を1kg当たり125kmとすると、1km当たりの燃料費は8.8円となる。ガソリン価格を1L当たり130円とすれば、燃費15km/Lの内燃機関自動車1km当たりの燃料費は8.7円になる。ガソリン価格にもよるが、燃費の良いハイブリッド車との比較ではFCVの燃料費は高くなりそうだ。FCVの価格が高いこともあり経済性の視点からは水素価格の下落が必要になる。

 いま、化石燃料から製造される水素のコストは、地域により化石燃料価格が異なるので幅がある。国際エネルギー機関によると2018年の時点で天然ガスからの製造コストは1kg当たり0.9から3.2ドル、石炭利用は1.2から2.2ドルだが、グリーン水素のコストは3.0から7.5ドルと相対的に高い。

 トヨタ自動車などの国際的企業が参加する水素協議会の今年1月のレポートでは、欧州の洋上風力を利用したグリーン水素の2020年価格6ドル/kgは設備投資額、発電コストを大きく引き下げることにより2030年に2.6ドルに下落すると予測している。化石燃料から製造する水素とほぼ同じレベルになる。ただ、水素1kgの電解による製造には55kWhの電力が必要とされることから、1kWh当たりの電力価格は2から3セントの前提になっていると思われる。

日本の挑戦と課題

 川崎重工業、J-Powerなどの日本企業は、日豪政府の協力のもと、褐炭から水素を製造し、排出されるCO2を貯留、回収するプロジェクトを進めている。このブルー水素は、液化、あるいはアンモニアなどにされ、日本に輸出される計画だ。経産省によると2022年の目標コストは1kg当たり約1.3ドルとされており、実現されれば十分に競争力があるレベルだ(図)。

 豪州政府は、日本、韓国、シンガポール、それぞれとの協力体制に加え、今年9月にはドイツとも水素供給に関し共同で企業化調査を行う覚書を締結しており、世界の水素供給基地を目指すとしている。豪州は、政治的にも安定しており信頼できるパートナーであることは間違いないが、水素利用が拡大する場合には、日本も供給源の多様化が必要になる。

 最もあり得る供給源は、日本国内において電解により水素を製造することだ。日本政府の数量目標は、2030年30万トンだったが、昨年末最大300万トンに引き上げられた。内42万トン以上をグリーン水素(経産省の定義では再エネと化石燃料+CCSにより製造)とすることを目指すとある。仮に年間100万トンの水素を国内で電解により製造するとした場合の電力消費量は、現状の技術前提では550億kWhになる。安定電源800万kW相当の量だ。現在の太陽光設備の発電量をほぼ全て利用する必要がある消費量だが、再エネは天候次第の変動電源なので電解設備の稼働率が低くなり、製造コストは高くなる。低炭素の安定電源と組み合わせなければ、CO2排出量ゼロの水素を競争力のある価格で製造することはできない。

 水素社会に移行するとなれば、再エネに加え安定的な低炭素電力供給力が大きな規模で必要になる。CCS付属の火力発電所ができているとしても、主力電源としては原子力が必要になるだろう。将来を見据えた電源構成を今から考えなければ水素社会実現は難しい。




再エネ導入促進へ 農地規制見直し検討-農水省

 https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2021/01/210107-48713.php

再エネ導入促進へ 農地規制見直し検討-農水省2021年1月7日

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農林水産省は政府が2050年に二酸化炭素排出ゼロ(カーボンニュートラル)社会の実現を目標としていることを受け、荒廃農地を活用した再生可能エネルギーの導入促進に向けて農地規制を一部見直す。通知などで措置できるものは今年度中に対応する。

2020年12月25日に開かれたタスクフォース会合2020年12月25日に開かれたタスクフォース会合

再エネ導入に農地活用

昨年末の12月25日に開かれた内閣府の「再生可能エネルギー等に関する規制等に総点検タス
クフォース
」のヒアリングで明らかにした。

農山漁村での再エネ導入促進のため平成26年に農山漁村再生可能エネルギー法が施行された。
趣旨は再エネ発電で地域の所得向上に結びつけていくことだが、食料生産や国土保全に支障
がないよう市町村が施設整備計画を立て国が認定する制度になっている。認定された場合は
特例として第1種農地でも太陽光発電設備などを設置できる。

ただ、太陽光パネルの下でも営農が適切に継続されるよう平均単収と比較して2割以上減少し
ていないかといった要件を満たし、農地に建てた支柱の基礎部分については一時転用許可
(10年間)を受ける必要がある。
あくまで営農との両立が目的で農地を使った単なる発電
事業とならないための措置だ。

一方で荒廃農地や今後の耕作の見込みのない農地については再エネ設備を設置して利用する
ことはできる。

「非農地」判断を見直し

内閣府のタスクフォースでは委員が平成25年から30年までの6年間で農地での再エネ導入は
1万haに過ぎないと指摘し、遊休農地を農業利用することや、不適切な転用を防ぐことは
「重要な農業政策の課題」としながらも、
再生困難な荒廃農地は、自動的に「非農地」と
する仕組みや、再生可能な農地でも再エネに利用したいという要望があった場合は市町村長
の判断で農業利用か、再エネ利用かを判断できる仕組みの導入などを求めた。

また、農業との両立をめざす営農型太陽光発電についても、温室と同様に転用許可不要とし、
単収要件や期間制限も外すべきだとした。風力発電も農業と両立できるとして支柱部分の転用
許可を不要とすべきとの意見も出した。

これに対して農水省は2050年カーボンニュートラルに向け、農山漁村での再エネ発電量目標な
どを新たなに設定する方針を示し、地産地消型エネルギーシステムづくりに向けて必要な規制
を見直すとした。
そのほか
農山漁村再エネ法に基づき基本計画を策定している市町村数は68(令和2年3月末)に
とどまっている
ことから、今後、全市町村で計画策定をめざすことも表明した。
委員からの意見に対しては、「農業的な利用が見込まれない農地を最大限活用して食料生産と
のバランスをとるかたちで再エネの導入を促進していく」との方針を表明。森林化して営農再
開が見込まれないような荒廃農地について市町村の判断で非農地とするができる仕組みや、
再エネ設備に活用するための方策を検討するとした。

また、荒廃農地を活用した営農型太陽光発電についても単収基準を設けているが、そもそも
荒廃した農地で作物生産が再開されたとして
単収基準の廃止を年度末までに検討するという。

ただし、優良農地での営農型太陽光発電についての規制は、農業と発電を両立させるための
特例措置であり、「営農のために必要な温室と同列に扱うことはできない」と反論した。
また、風力と農地は共存できるとしながらも、農地に巨大な支柱を建てる場合は、あくまで
現行規制のように県による検証と転用許可が必要と強調した。
委員からは、2050年にカーボンニュートラルをめざすと菅総理が昨年秋の臨時国会で表明し
政府全体の方針となったことから「大前提が変わった。再エネを増やす方向で農業政策も
変わっていく必要がある」と農地規制のさらなる緩和を求める意見も出た。

「スカートを切ってでも前へ」-河野大臣

出席した河野太郎規制改革・行政改革担当大臣は再エネの導入は「とくに中山間地域では
農業にとってもプラスではないか。
わずかな面積でも収入が得られるのなら農業の継続性に
プラスになる
のではないか」と話し、さらに規制緩和を求め「誰かがスカートの裾を踏んで
いるのならスカートを切ってでも前に進まなければ(政府目標は)達成できない」と述べた。

2019(令和元)年のわが国の耕地面積439.7万ha。そのうち市町村と農業委員会の現地調査で
「再生利用が可能な荒廃農地」は9.1万ha。「再生利用が困難と見込まれる荒廃農地」は
19.2万haとなっている。
今回の検討は「再生利用が困難な荒廃農地」を再エネ利用するため
の仕組みが議論となっているが、それだけでなく優良農地での風力発電促進を求める声も出
ていることに注視が必要ではないか。あくまで
農家と地域の収入にプラスになる地産地消型
の再エネ導入を基本とすべき
だろう。




低コストなエネルギー貯蔵手段として注目される「重力エネルギー貯蔵システム」とは?

 https://gigazine.net/news/20210107-gravity-energy-storage/

低コストなエネルギー貯蔵手段として注目される「重力エネルギー貯蔵システム」とは?


太陽光発電にかかるコストは2030年代には化石燃料の発電所を動かすコストより安くなると予想されており、太陽光発電による電力の供給量は今後も増加していくと考えられています。しかしいつでも安定して発電できるわけではない太陽光発電の普及により、揚水発電のような余剰電力を貯蔵するシステムが求められるようになりました。そこで、米国電気電子学会(IEEE)の学会誌IEEE Spectrumが比較的低コストなエネルギー貯蔵手段として注目されている「
重力エネルギー貯蔵システム」について解説しています。

Gravity Energy Storage Will Show Its Potential in 2021 - IEEE Spectrum
https://spectrum.ieee.org/energy/batteries-storage/gravity-energy-storage-will-show-its-potential-in-2021

スイス発のスタートアップEnergy Vaultが商業テストを開始している「CDU Arbedo Castione」は、高さ110メートルのタワーに設置された6本のクレーンで重さ35トンのコンクリートブロックを上下に運動させ、最大80メガワット時のエネルギーを貯蔵できる重力エネルギー貯蔵システムです。コンクリートを用いることから「コンクリートバッテリー」とも呼ばれています。

Energy VaultのCEOであるロバート・ピコニ氏によると、リサイクルにコストのかかるリチウムイオンバッテリーと異なり、コンクリートバッテリーで用いるコンクリートは廃棄されたコンクリートを再利用して作られているため、環境への負荷が少ないとのこと。また、コンクリートバッテリーはリチウムイオンバッテリーと同じ量のエネルギーを半分のコストで貯蔵することができます。さらに、リチウムイオンバッテリーは徐々に劣化し交換が必要となりますが、コンクリートバッテリーでは交換の必要はありません。

Energy Vaultは2019年に1億1000万ドル(約113億円)の資金調達に成功しており、2021年にはコンクリートバッテリーの運用を開始する予定です。なお、コンクリートバッテリーの外観は以下のムービーで確認できます。

Commercial Demonstration Unit August 2020 - Arbedo-Castione - YouTube

https://youtu.be/k3fy1u7Gj1w

スコットランドに拠点を置くGravitricityも実用段階に近い重力エネルギー貯蔵システムを開発しています。Gravitricityの開発する重力エネルギー貯蔵システムは、
廃棄された深さ1kmの立坑を利用して重さ500~5000トンのおもりを上下させることでエネルギーを入出力します。

Gravitricityのプロジェクト開発マネージャーであるクリス・ヤンデル氏によると、Gravitricityの重力エネルギー貯蔵システムは1つのおもりを用いてエネルギーを管理することにより、必要な電力を素早く短時間で入出力できるとのこと。

Gravitricityの重力エネルギー貯蔵システムは、2021年にはスコットランドでテスト運用を開始する予定で、ヤンデル氏は「信号を受信してから1秒以内にエネルギーを入出力できるシステムを開発することが目標です」と語っています。


アメリカの企業であるGravity Powerは地下に大量の水を貯蔵し、その水で巨大なピストンを上下させてエネルギーを貯蔵するシステムを開発しています。

このシステムで6.4ギガワット時のエネルギーを貯蔵するためには、800万トンを超える質量のピストンが必要です。800万トンの巨大なピストンを製造するのは不可能に思えますが、Gravity Powerの創設者であるジム・フィスケ氏は「現代の技術では800万トンのピストンを十分に製造することができる」と語っています。


最後にIEEE Spectrumは「これらの重力エネルギー貯蔵システムはリチウムイオンバッテリーを利用したシステムと比べて経済的ですが、それでも高額な費用が必要です。しかし、世界の国々が気候変動の深刻さを認識したとき、これらのシステムに喜んでお金を払うでしょう」と締めくくっています。




2021年1月6日水曜日

進化の道変えた原発 小型炉に浮かぶ「現実解」

 https://www.nikkei.com/article/DGKKZO67911220W1A100C2MM8000

進化の道変えた原発

小型炉に浮かぶ「現実解」

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ニュースケール社が計画する小型原発の完成イメージ。原子炉は地下に格納する

新政権発足後、即座にパリ協定に復帰すると宣言した米国のバイデン次期大統領。2兆ドル(206兆円)を投じる気候変動対策には原子力発電所の活用も盛り込む。力点を置くのが、安全性が高いとされる小型原子炉の開発だ。

米国では2007年創業のスタートアップ、ニュースケール・パワーが脚光を浴びる。標準的な炉は100万キロワット級だが、同社が扱うのは数万キロワット。外観のイメージ図に原発特有の巨大な建屋や冷却塔はなく、体育館のような施設が並ぶ。

丸ごとプールに

配管が複雑に絡み合うこれまでの原発の雰囲気はない。数万キロワット級の原子炉を5~6本まとめてプールに沈め、発電する。水につかっているから事故で電源を喪失しても炉心を冷やしやすい。核のごみの発生も今までより少なく抑えられる。

昨年夏には12の炉で米原子力規制委員会の設計審査を終えた。「原子炉の大きさもコストもお客様の相談に乗ります」。1基の規模は小さくとも、複数の炉を連結すればより大きな電力を生み出せる。同社は政府機関や企業などにオーダーメードで原発を提供する。設置を拒む地域もあるが、万一事故を起こしても影響を受けるエリアが狭く、送電網がない地域でも設置できる利点を強調する。

ロシアでは海に浮かべた小型の原発が威力を発揮する。国営企業のロスアトムが「原子力砕氷船」に積んでいた小型炉を浮体式の海上原発に転換。海上の利を生かし、電力網の脆弱な発展途上国などに展開する。

原発は一大消費地の電力をまかなえるよう、出力を大きくして効率的に供給する方向に進化してきた。大きくなると複雑で制御しにくい。いま、原発は必要なだけの電力を安全に供給する小型化を探る。

米ロが原発の技術を磨くのは再生可能エネルギーをフル活用しても、電源に占める割合は5~6割にとどまるとの認識が広がっているからだ。水力で9割をまかなえるノルウェーのような国は別格。50年目標は英国で65%、米国で55%とされている。欧州では脱石炭という要請もあり、二酸化炭素(CO2)の排出がない原子力に自然と目が行く。

日本も似た状況にある。再生エネには50~60%しか頼れず、残りの穴埋めが課題だが、立ち位置は曖昧だ。政府が昨年末にまとめたグリーン成長戦略では、原発単独でどこまで手当てするか明確にしなかった。50年時点の電源構成は「原子力と火力で合計30~40%程度」。既存原発の再稼働もままならず、新増設も封印する現状を映す。

増す火力コスト

では火力に頼れるかというと、心もとない。東日本大震災後、原発がゼロになるなか、石炭火力を電源全体の3割まで高めたが、カーボンゼロ実現には脱却は待ったなし。クリーンな電源として使い続けるにはCO2の排出抑制策が必要になる。

政府は火力で生じるCO2を回収・貯留するCCSを進める。代表的な地中貯留の技術は1トンあたり約7千円かかる。現在の石炭火力の発電コストは1キロワット時12.3円だが、CCSの費用が乗ると最大19円程度に跳ね上がる。10.1円の原発との差はさらに広がり、商業利用には相当なコストダウンが求められる。

日本は欧州と比べると再生エネの利用で地理的な制約を受けやすい。山が多く、洋上風力に適した海域は狭い。経済性を考えるともうひとつの安定電源を頭に入れておく必要がある。原発は福島での事故から足踏みが続いたが、カーボンゼロに向けてもう思考停止は許されない。使用済み核燃料の問題も含め、今後とるべき道について合意を探るときだ。