2020年12月5日土曜日

「総論賛成、各論反対」脱炭素に乗り遅れた日本にのしかかる3つの課題

 https://president.jp/articles/-/41098


「総論賛成、各論反対」脱炭素に乗り遅れた日本にのしかかる3つの課題「技術」だけで目標達成は不可能

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第一の課題:「技術開発促進」と「政策の後押し」

「2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにする」目標を達成するためには、乗り越えなければならない大きな課題が三つあると私は考えています。

海上風力発電
写真=iStock.com/zentilia
※写真はイメージです

第一の課題は、「技術開発」とそれを後押しする「政策」です。

技術開発は、言うまでもなく目標達成のための「核」であり、環境対策と経済成長とをつなぐ「要」となります。世界的な温室効果ガスの削減競争が始まった今日、民間企業の研究開発や技術革新へのサポート、市場拡大や製品やサービスの移行を促すような政策的な後押しの巧拙が問われていくことになるでしょう。

しかし、技術開発をいくら進めても、それだけに頼って「温室効果ガス実質ゼロ」を達成できるとは、私は思っていません。このことについては第三の課題として詳しく論じたいと思います。

規制改革で「総論賛成、各論反対」を打破せよ

菅首相の所信表明演説に先立つ10月20日、河野太郎規制改革相は日経新聞のインタビューに答え、「再生可能エネルギーの活用促進に向けて既存の制度を総点検する」と表明しました。再生可能エネルギー(以下、再生エネ)の主力電源となる太陽光発電と風力発電の設置場所に関する規制や、送電網の割り当てや容量規制に関する基準などを順次緩和していく方針を示しました。また、小泉進次郎環境大臣も「実質ゼロ」の必要性を菅首相に強く訴えたと思います。

また、10月31日の日経新聞は、「再生エネの普及を後押しするため、地域間送電網の複線化を政府と電力会社で2021年春までに計画を策定して具体的な場所や規模を詰める」と報じました。

送電網の問題はこれまでも何度か報道されてきたように、再生エネへの送電量の割り当てには制限があり、制限を超えそうな場合は火力発電や原子力発電による電力を優先して出力を調整してきました。再生エネを取り巻くこうした「総論賛成、各論反対」的な状態は早期に解消する必要があります。

「気象条件に左右される再生エネ問題」の解消方法

風力発電は風が吹かなければ発電できない、太陽光発電は夜になったら発電できない、そんな不安定な発電に頼っていては、日本中で停電が頻発する事態になりかねない、という意見がいまだに根強くあります。

むろん、ある地域のある風力発電機だけを見れば、風が弱ければ止まっているときもあるでしょう。風が強い時には出力が上がり、弱い時には出力が下がる不安定性も確かにあります。しかし、日本各地にたくさんの風力発電所ができ、それらを効率よく制御し配電するネットワークを構築できれば、その問題は解消へと向かっていきます。太陽光発電も、昼間に発電した電気を溜めておく蓄電池の技術革新と普及が進めば、問題はほぼ解決できるはずです。

「再生エネの主力電源化」でこそ問われる日本の底力

これまで、主力電源はあくまでも火力や原子力で、再生エネは補助電源という考え方で制度が組み立てられていました。これからは、再生エネが主力電源であり、それを実現するにはどういう技術開発が必要かという発想に変わっていくと思います。

そして、再生エネを主力電源に育てるには、たんに太陽光パネルや風力発電機の数を増やせば事足りるわけではありません。作って、送って、貯える、そのすべてに技術開発が必要で、そうした技術開発やインフラ整備を促進するための資金面での後押し、法改正や規制改革のような政策面での後押しをどう設計するか、これが第一の課題です。

2050年、原発は「ほぼゼロ」に近づいていく

原子力発電については、11月11日に村井嘉浩宮城県知事が東北電力女川原子力発電所2号機の再稼働の前提となる地元合意を表明したように、これからも全国各地の原子力発電所で再稼働の動きが出てくることでしょう。その一方で、原子力発電所の新増設については、仮に政府が推進しようとしても、福島第一原発事故の記憶が残っているうちは、それを受け入れる自治体が数多く出てくる状況にはならないと思われます。

原子力発電所の運転期間は40年と規定され、原子力規制委員会の認可を受ければ、20年を超えない範囲で1回限り運転期間を延長できるとされています。現在稼働中あるいは再稼働に向けた準備を進めている原子力発電所の多くは1980年代~2000年代に運転を開始しています。

ベルギー・ティアンジュの原子力発電所
写真=iStock.com/jotily
※写真はイメージです

したがって、仮に再稼働がなされても新増設が行われないとすると、2050年時点で稼働している原発はほぼゼロに近づいていくことになります。したがって、2050年の電源構成を再生可能エネルギーで100%賄うぐらいの高い目標設定を行って、いまから強力な制度設計を行っていく必要があると思います。

「総論賛成、各論反対」脱炭素に乗り遅れた日本にのしかかる3つの課題「技術」だけで目標達成は不可能

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第二の課題:巨額投資を賄う「財源」は確保できるか

第二の課題は「財源の確保」です。

11月14日、米大統領選で候補指名を固めた民主党のバイデン前副大統領は、4年間で計2兆ドル(約210兆円)を投資する環境政策を発表しました。

日本の投資額はこの原稿の執筆時点では明らかにされていませんが、アメリカに準ずるような大きな投資額になることでしょう。

英、独はじめEU各国は、早い国では1990年代から温暖化ガスの排出削減に向けた努力を開始し、2000年代からはEU全体での取り組みを加速させ、2010年には1990年比で20%近い削減を達成しています。さらに今年9月には、2030年に1990年比で40%減だった従来目標を55%減にする新たな目標を打ち出しました。

助走期間が足りない「日米の苦悩」

先行したEU各国には、10年から20年間の「助走期間」があって、いまそれを加速させようとしているのに対し、日米政府はこれまでいわば「足踏み」状態でしたから、30年後のゴールに向けて一気に加速するために、短期間で巨額な投資が必要になるのです。

しかし、言うまでもなく、足元ではコロナ対策への財源が必要となる中で、脱炭素社会へ向けた財源を手当てするのは容易なことではありません。今日、グリーン投資を加速するような優遇策や税制改正が与党の税制調査会でも議論されているようですが、おそらく近い将来、たとえば炭素税のような新たな税のありかたも含めた財源確保の議論が本格化されていくことになるでしょう。

日本版炭素税「地球温暖化対策のための税」の税収額

「脱炭素社会」へ向けた財源として、EUではすでに「炭素税」が導入されています。

「炭素税」とは、単純にいえば、化石燃料に含まれる炭素の排出量に応じて税金を負担してもらう仕組みです。あまり知られていないかもしれませんが、日本でも2012年から「地球温暖化対策のための税」という名称で炭素税が導入されています。税額はCO2排出1トン当たり289円です。

私たち生活者にいちばん身近なガソリンを例に挙げると、1リットル当たりの税額は約0.7円になります。ちなみに世界で最も高い税額を課しているスウェーデンの税額はCO2排出1トン当たり127ドルで、1ドル=105円で換算すると1万3335円となり、日本のおよそ46倍です。ガソリン1リットル当たり30円強の計算になります。

「地球温暖化対策のための税」の税収は日本では約2600億円程度とされ、今後、政府が温暖化対策を積極的に進めていく財源としてあてにするのであれば、税額の引き上げはおそらく不可避になることでしょう。

「排出量取引」の本格導入はいつか

直接的な財源にはなりませんが、炭素税と同じように化石燃料に価格を付けて、財源を手当てせずに排出量を削減するメカニズムとしてEU各国で導入されているのが「キャップ・アンド・トレード型」と呼ばれる「排出量取引制度」です。

この制度は、まず国の排出可能総量枠(キャップ)を定めて、それを大口の排出者へ細かく割り当てます。各排出者は割り当てられた排出枠に余剰分が出た場合(排出量が少なかった場合)、それを他者(排出量が超過してしまった排出者)と取引(トレード)することができる制度です。

期初に割り当てられる排出枠は無償ですから、排出枠の余剰分は利益となり、反対に超過分はコストとなります。また、排出枠の取引価格は市場で決まり、余剰分(売り)が少なく超過分(買い)が多ければ排出単価は高値となってしまいますので、排出量の削減に向けて経済的なインセンティブが働きやすい特徴があります。

世界での導入国はEU、スイス、アメリカの北東部の州やカリフォルニア州、韓国、中国などで、日本は国としては導入されていませんが、東京都と埼玉県が大規模事業所を対象に導入しています。この排出量取引制度も近い将来、国として導入が図られるものと思います。

「環境特別税」に国民の理解は得られるか

先に日本の「地球温暖化対策のための税」の税収が約2600億円と述べましたが、仮にこの税額を数倍程度に引き上げたところで、これから始める日本の大変革への財源を賄えるとは思えません。

おそらく、いま財務省をはじめ各省庁が必死になって知恵を絞り、ありとあらゆる財源を見直して、温暖化対策のための財源確保を行っていると思われますが、常識的に考えて、これまで何かの目的があって手当てされていたものを来年度からいきなりやめるとか、大幅に削減するとかということが容易でないことは明らかです。

そこで、東日本大震災による復興財源の確保を目的として所得税・住民税・法人税に上乗せするという形で徴収されている「復興特別税」のような、いわば「環境特別税」の新設も検討していかざるを得なくなると思います。

これまで政策の不十分さにかまけて「助走期間」を十分に取ってこなかった日本は、そのツケの返済をいま求められているのです。果たしていっそうの負担を強いられる国民の理解が得られるのかどうか、それが第二の課題となります。

「技術開発」だけに頼った目標達成は「不可能」

第三の課題は、「国民のマインドセット」です。

第一の「技術開発と政策的な後押し」、第二の「財源の確保」は、主に政府によるインフラ整備や民間企業による技術革新に焦点を当てた課題提起でした。しかし第一の課題で少し触れたように、「技術開発」だけに頼って「温室効果ガス実質ゼロ」を達成するのは困難であり、環境問題に50年間関わってきた者としての本音をいえば「不可能」だと思っています。

第三の課題:「経済>環境」から「環境>経済」への転換

なぜ「技術開発」だけでは達成が困難なのでしょうか。

連載の第1回で「1990年からの約30年間、省エネ技術はかなり普及したにもかかわらず、温室効果ガスはわずか2.8%しか減っていない」という「不都合な事実」を述べました。

加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)
加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)

なぜ2.8%しか削減できなかったかというと、たとえば、夏に猛暑が続いて一日中エアコンをつける、冬に寒波が襲って暖房用のエネルギー消費がかさむ、ネット通販や物流網が発達して注文した翌日に品物が届くような配達頻度の高い物流網が構築される、そうしたことがごく当たり前の日常になりました。

さらに社会全体を見渡せば、食べきれない量の食、着まわせない量の服が生産され、1日24時間眠らない街、1年365日休むことのないサービスが提供されています。つまり、生活に便利さや快適さを求めて、それを実現してきた過程で、ある単位当たりのエネルギー消費量は削減・省力化が果たされてきていても、それを行使する場と機会と頻度が大幅に増えてしまい、トータルでの温室効果ガスの排出量は思ったほど減らせなかったというのが、これまで30年間の「不都合な事実」の基底にあるからです。

エネルギー消費の無駄を「社会全体、生活全般」で減らす

極論であることを承知でいえば、2020年の日本で30年前の1990年と同じ様式で生活が営まれていると仮定すれば、日本の人口が少し増加したとか、東日本大震災の原発事故によって火力発電、とくに効率の悪い石炭火力に頼らざるを得ない時期があったといった事情があったにせよ、その間に進んだ省エネ・省電力との差し引きの成果がわずかマイナス2.8%と、ほとんど打ち消されてしまうような結果になることはなかったと思います。

つまり、この先いくら技術開発を進めていったとしても、再生エネに切り替えていったとしても、日本国民が今日の便利さ・快適さを今後もさらに追求していく考え方でいる限り、温室効果ガスの排出量は期待されているほどには減りません。国民の一人ひとりがある程度の「抑制」を受け入れ、エネルギー消費の無駄を社会全体、生活様式全般で減らしていく心構えを共有しない限り、「温室効果ガス実質ゼロ」が達成できないことは、すでに証明されているのです。

コロナ禍で「制約・抑制」を受け入れた日本人

今年4月、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため「緊急事態宣言」が発令され、「不要不急」の外出が制限されました。これによって第2波の山を抑制し、医療現場の崩壊を免れることができました。

今日、感染拡大の第3波が発生していますが、ワクチンや治療薬が開発され、国民に十分に行きわたる状況が作りだされるまでは、不要不急の外出自粛、3密の回避、GoToキャンペーンの制限など、ある程度の制約や抑制が強いられても仕方ないと受け入れている国民が多く存在していると思います。そうでなければコロナ禍を乗り切れないと理解しているからです。

環境危機は「人類の英知」で食い止められる

気候危機などの環境危機は、コロナ危機と同じように、あるいはそれ以上に人命や財産を奪う恐ろしい危機ですが、その進行は穏やかで、長期間にわたり、よくよく目を凝らしていないと見えにくいという特殊性があります。しかし、地球環境の悪化は人類のみならず地球上の生物を、不可逆性をもって危機へと追い込んでいるのです。

コロナ禍に勝るとも劣らない環境危機は、しかし、人類の英知によってその進行を食い止めることができる数少ない危機でもあります。そのために何をするべきか、反対に何をするべきではないのか。それが国民に共有され、実行されたとき、また持続可能な社会制度や生活様式への移行がなされたとき、温室効果ガスははじめて劇的に削減されると、私は思い、そこに希望を見いだしています。


2020年12月4日金曜日

「温室効果ガス2050年実質ゼロ」に沸く日本人を落胆させる不都合な事実

 https://president.jp/articles/-/41034

不名誉で中途半端な「環境対策後進国」

2020年10月26日、菅義偉首相は所信表明演説で「温室効果ガス2050年実質ゼロ」を表明しました。
 私は、1966年から当時の厚生省・環境庁の行政官として27年間、93年に退官した後は環境NPOの主宰者として同じく27年間、一貫して環境問題に携わってきました。その間に、かつて公害対策技術先進国として世界をリードする立場にあった日本は、とくに直近20年間は停滞ないしズルズルと後退し、世界的に見れば、いつまで経っても脱炭素社会に舵を切らない、不名誉で中途半端な環境対策後進国になってしまっていたのです。

翌27日の全国紙朝刊はそろって「温室効果ガス2050年実質ゼロ」を1面トップで報じました。それはすなわちマスメディアのみならず日本国民のこの問題に対する関心の高さや歓迎ぶりを表すものだったと思っています。

2020年秋、日米中「脱炭素社会」へのそろい踏み

菅首相の「温室効果ガス2050年実質ゼロ」宣言は、日本の環境政策においては画期的な出来事でしたが、世界を見渡せば、先行するEUはもちろん、米大統領選で当選を確実にした民主党のバイデン候補も同様に「2050年実質ゼロ」の目標を表明しました。また日米両国に先立ち、世界最大の温暖化ガス排出国である中国の習近平国家主席も、9月23日の国連総会で「2060年までの温室効果ガスの実質ゼロ」を表明しています。

つまり2020年秋は、これまで後れを取っていた日米中の3国がそろって脱炭素社会への挑戦を宣言した歴史的な転換点となったのです。

最新の温室効果ガス排出量は「12億4000万トン」

下に掲載した「図表1」は、環境省が2020年4月に発表した「2018年度(平成30年度)の温室効果ガス排出量(確報値)<概要>」から引用したものです。なお「確報値」とは、「国連の気候変動枠組条約事務局に正式に提出した数値」という意味で、2018年度の確報値が最新のものとなります。

我が国の温室効果ガス排出量(2018年度確報値)
我が国の温室効果ガス排出量(2018年度確報値)

経済の「浮沈」と温室効果ガス「排出量」の相関関係

図表1を見ると、ここ十数年の日本の経済社会の歩みを思い返すことができます。

2009年度に棒グラフがいったん下がっているのは、2008年のリーマンショックの影響により国内の経済活動が縮小・停滞したことが主な要因です。そのため、経済が回復すると、温室効果ガスの排出量も上昇に転じています。

2013年度に14億1000万トンと、過去最大の排出量となったのは、2011年の福島第一原子力発電所の大事故を契機として日本中の原子力発電所の稼働が止まり、その代替役を火力発電所、とりわけCO2の排出量が多い石炭火力が担ったことが主な要因です。

2014年度以降、年数パーセントずつ排出量は削減され、2018年度は12億4000万トンと、日本国内での基準年度となる2005年度と比較してマイナス10.2%、過去最大の排出量だった2013年度と比較するとマイナス12.0%を達成しています。

このまま順調に削減対策が進んでいけば、温室効果ガスの排出がゼロに近づいていくのではないかと、国民に期待を抱かせるグラフになっています。

「2050年実質ゼロ」への遠き道のり

図表2は、図表1の集計年度(X軸)と温室効果ガスの排出量(Y軸)をフルスケールに戻し、2050年度の排出量をゼロと仮定して、それを破線の折れ線グラフで表したものです。

日本の温室効果ガス排出量(1990~2050年度)

「第一約束期間のマイナス6%」を日本はどうクリアしたか

1990年がグラフの起点となっているのは、COP3で「京都議定書」が採択された1997年に、温室効果ガスの削減目標の基準年を1990年に定めたことによります(一部の温室効果ガスの基準年は1995年としてもよいことになっています)。

ちなみに京都議定書では、日本に対し「温室効果ガスを2008年から2012年(第一約束期間)の間に、1990年比で6%削減すること」を規定していましたが、日本はその目標を実質的にはクリアすることができませんでした。ただし、他の国の排出削減量を日本政府がお金で買い取った分などを加えて、議定書上ではクリアしています。いわば外国での削減量のゲタをはかせてのクリアです。

なお、グラフの中の2030年の削減目標数値は、2015年7月に安倍前政権が国連気候変動枠組条約事務局に提出した「日本の約束草案」の「2030年度の温室効果ガス削減目標を2013年度比26%減とする(約10億4000万トン)」をそのままグラフ上にプロットしたものです。菅政権が新たな数値目標を提出するまで、国際社会ではこの数値が「日本の約束」となります。

また、菅首相も所信表明演説で温暖化ガスの「実質ゼロ」という言い方をされたように、温室効果ガスを排出した量から吸収源活動(森林吸収源対策、農地管理・牧草地管理・都市緑化活動)によって温室効果ガスを吸収した量を引いて算定することが国際的に認められています。ちなみに2018年度の吸収源活動による吸収量は5590万トン、排出量比で4.5%となっていますが、図表1・図表2ともその吸収分はグラフ上に反映させていません。

削減量は「28年間でわずかマイナス2.8%」

図表2のグラフからわかる「不都合な事実」が二つあります。

一つは、1990年度から最新の確報値である2018年度の28年間で、温室効果ガスは12億7600万トンから12億4000万トンへと、「わずか2.8%しか減少していない」という事実です。

多くの読者の方は、「えっ? 2.8%しか削減できていなかったの?」と違和感を持たれたのではないでしょうか。

1990年から今日までの約30年間を振り返ってみてください。この30年間、日本人や日本企業が温室効果ガスを削減するための努力を何もしてこなかったのでしょうか?

いえ、もちろんそんなことはありません。

「省エネ・省電力」がこんなに進んだ日本が「なぜ?」

たとえば、1997年、トヨタからハイブリッド車の初代プリウスが発売され、その後、各自動車メーカーからさまざまな形式のハイブリッド車や低燃費車が市場投入されてきました。2002年には自動車税のグリーン化税制が始まり、燃費の良いエコカーの普及に弾みがつきました。

加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)
加藤三郎『危機の向こうの希望 「環境立国」の過去、現在、そして未来』(プレジデント社)

また、2009年には、余剰電力の固定価格買い取り制度(FIT制度)が始まって、屋根に太陽光電池パネルを据え付けた住宅、ビル、建物が増えていきました。同じころ、白熱電球の置き換えができるLEDが登場し、一般家庭でも普及が進んでいきました。もちろんそのほかの家電製品でも省エネ・省電力化が当たり前のように進んでいます。

企業も同様です。製造設備はもちろんのこと、オフィスや物流など、事業全体のさまざまな分野で省エネ・省電力の努力と工夫を重ねてきました。

しかし、そうした努力が進められたにもかかわらず、温室効果ガスの排出量はどうなったかというと、1990年比でわずか2.8%しか減っていないというのが厳然たる事実なのです。

これまでの延長線上で「90%以上の削減」は到底不可能

二つ目の「不都合な事実」は、一つ目の裏返しで、これから2050年までの間に残りの97.2%、吸収源活動分を考慮してもおそらく2018年度比で90%以上を削減しなくては「実質ゼロ」にならないという事実です。

これまで何の対策も行っていないならともかく、さまざまな削減努力を30年間近く行ってきても2.8%しか削減できていないのですから、これからの30年間で「温室効果ガスを実質ゼロにする」という目標がいかに高い目標か、同時に、今までの削減活動の延長線上では到底到達できそうにない目標であるか、を認識されたのではないでしょうか。