2018年11月8日木曜日

再現可能エネルギー普及の鍵は貯蔵コスト。Energy Vaultが答を知っている

■出典: https://jp.techcrunch.com/2018/11/08/2018-11-07-the-cost-of-energy-storage-has-stalled-adoption-of-renewable-power-energy-vault-has-a-solution/

再現可能エネルギー普及の鍵は貯蔵コスト。Energy Vaultが答を知っている

ソーラーエネルギーや風力エネルギーが化石燃料エネルギーより安く作れるようになった今、再生可能エネルギーの普及にとって唯一残る問題は、作られたエネルギーの貯蔵に必要なコストだ。
現在再生可能エネルギー100メガワット(約60万世帯を賄うのに十分)を貯蔵するためには、Teslaが作っているようなバッテリーを約6560万ドル分大量に揃えるか、ダムを作り落下する水でタービンを回す巨大揚水発電所(通常100メガワット以上の能力を持つ)に頼るしかない。
Bill GrossのIdealabというカリフォルニア州パサディナのインキュベーター出身のEnergy Vaultは、揚水発電の原理に基づく新しいテクノロジーを開発した。同社によると、そのテクノロジーはエネルギー貯蔵コストを今の1桁以下に抑えることが可能で、再生可能エネルギーのコスト効果を一日中毎日高くすることができる。
気候変動の懸念が増すにつれ、再生可能エネルギーの魅力とコスト効果を高める方法を見つけることは、優れたビジネスチャンスであるだけではない——全地球の優先課題だ。
Engergy Vaultのテクノロジーは、33階建ての高さで6本のアームを持つクレーンからなり、ブームを延ばすとフットボール場の長さに近くになる(約87ヤード)。そのクレーンは5000個の巨大なコンクリートブロックが囲まれていて、重量は全体で約35トンになる。
「通常これを風力あるいはソーラー発電所の近くに作る」とEnergy VaultのCEO Robert Piconiは言う。「これは都市の真ん中に置くものではない」。
クレーンは、ソーラーや風力で発電されたエネルギーを蓄積、あるいは電力網に放つためにセメントブロックを動かすソフトウェア・システムによって制御される。
Piconiによると、同社のシステムはエネルギー容量公称35メガワット、ピーク容量4メガワットの能力を持つ。立ち上がり時間は最短1ミリ秒で、2.9秒で100%のパワーを得ることができる。
システムの充放電効率は約90%で、この技術は耐用年限約30年の極めて耐久性の高い材質による力学的エネルギーに依存しているためエネルギー損失はない。
このすべてを実現するシステムの価格は7~800万ドル程度だとPiconiは言う。システムの永続性をさらに高めるのが、埋め立てに使うしかないリサイクルコンクリートを使っていることだ
——新たなセメント工事は不要だ。
すでにEnergy Vaultは、デモシステムをスイスのルガーノ本社近くのビアシカに建設済みだ。このデモンストレーション施設は、同社初の顧客であるインド最大の総合電力会社The Tata Power Company Limitedが、2019年までに35 MWh のEnergy Vaultシステムを構築する契約に一役買ったはずだ。
「エネルギー貯蔵法のイノベーションは、再生可能エネルギーを加速し、世界の増え続けるエネルギー需要を満たす化石燃料に代わる主要供給源とする最大最速の方法だ」とEnergy Vaultの共同ファインダーでIdealabのファウンダーBill Grossが言った。「Energy Vaultがこの画期的テクノロジーを市場に送り出すために役立てることを大いに喜んでいる」
事実、Piconiによると、今後2年間に同社顧客がこのシステムを使って作る設備の総貯蔵容量は500メガワットから1ギガワットに上るとEvergy Vaultは予想している。
「われわれにはこうした設備を作る顧客が各大陸にいる」と彼は言った。
Danaherの幹部だったPiconiは、12年前にIdealabのファウンダーだったGrossが再生可能エネルギー技術を手がけ始めた頃に出会った。ふたりは連絡を取り合い、10年近く協力しあった後、Energy Vaultの設立を真剣に考えるようになった。
そして2017年、PiconiとGross、そして共同ファウンダー、最高技術責任者のAndrea Pedrettの三人はEnergy Vault斬新なエネルギー貯蔵の方法を思いついた。i
「数年前、エネルギー貯蔵が重要になることを彼ははっきりと知っていた」とPiconiは言った。
三人は揚水発電の効率に注目し、力学的エネルギーを使ってそのプロセスを真似る方法についてブレインストーミングを始めた。「まず鉄塔を考えたが高価すぎた。塔の上に水を汲み上げることを考えたが、効率に問題があった」とPiconiは言った。「そして、コンクリートブロックとクレーンを思いついた」
コンクリートは材料コストの点で重要であり、セメント製造に関わるエネルギー消費と公害を考え、チームはリサイクルセメントを使い、彼らのエネルギー貯蔵システムに使うブロックを作ることにした。
そして、世界最大手のセメント製造会社Cemexが、Energy Vaultにパートナーとして加わった。
Energy Vaultはすでにいくつかの「シード」ラウンドで資金を調達し、テクノロジー開発やスイスのプロトタイプの建設・運用に充てている。
「Energy Vaultのチームは画期的なプラットフォームを開発した。われわはこのチームを支援し、環境効率とコスト効率の高い実用性の高いエネルギー貯蔵ソリューションを提供することを大いに楽しみにしている」とCemexのグローバル R&D・知財権の責任者r. David Zampiniが言った。「われわれは資源が責任をもって使われる未来を可能にするという共通認識を持っている。それはCemexの維持可能開発戦略の核心でもある」



2018年6月8日金曜日

テスラの大規模蓄電池の成功がもたらした驚くべき結果

■出典: https://blog.evsmart.net/ev-news/tesla-energy-hornsdale-power-reserve/

テスラの大規模蓄電池の成功がもたらした驚くべき結果

テスラがオーストラリアの南オーストラリア州に設置した大規模蓄電池は、現地の電気供給サービスのシェア55%を占めただけでなく、電気料金を90%も引き下げてしまいました。Australian Energy Weekでの発表をもとに、何が起こったかを紹介します。
テスラの大規模蓄電池の成功がもたらした驚くべき結果
クリーン・エネルギーとその関連技術、それらについてのさまざまな分析を行っているサイト”RenewEconomy.com.au”に5月11日に掲載されたSophie Vorrath、Giles Parkinson両氏の記事によると、オーストラリア初の実用規模の大規模蓄電池は、実際に稼働したところ、現地の経済に「衝撃」と言えるほどの大きな影響をもたらした、とのことです。これは、2018年5月8日から11日までオーストラリアのメルボルンで開かれた“Australian Energy Week(AEW)”のさなか、5月10日(木)にMcKinsey氏と事業協同者のGodart van Gendt氏が発表したデータによって明らかにされました。
AEWのなか、オーストラリアにおける再生可能エネルギーへの移行を支援する技術や戦略を話し合うパネルに現れたvan Gendt氏は以下のように述べました。「今回のデータから、大規模蓄電池はグリッド(電力供給網)の中で重要な役割を果たし得ると言えます。今回の大規模蓄電池の成功に関しては、『この種の施設では世界最大規模』という事実や、『驚くべき早さで建設され短期間で完成させてしまった』といった点にどうも関心が集まってしまっていますが、じつは『経済の面』でも関心を持っていただける事実がいくつもあるのです。市場データからいくつか成果をご紹介いたします。the Hornsdale Power Reserve(HPR:テスラによる大規模蓄電池の正式名称、Neoen社が所有し稼働させている)が運転を開始してからの4ヶ月で、地域の電力供給サービス(FCAS)の料金は90%も下がりました。いいですか、90パーセントですよ。そして、この100MWの蓄電池は、南オーストラリア州(SA州)の電力関連収益の55%以上を占めてしまいました。SA州の総電力量のわずか2%に過ぎない容量の蓄電池が、収益の55%を叩き出してしまったのです。最初の蓄電池だけでこれだけのシェアと収益を出してしまったので、次にお作りになる(2番目の)蓄電池は、成功するのはかなり大変も知れません。まずは幸運をお祈りしておきます。」このvan Gendt氏のプレゼンの中ですでに使われている語句についてですが、オーストラリアの電気供給サービスはその付帯サービスを含めて”Frequency Control Ancillary Service(略称FCAS)”と呼ばれています。
テスラが豪州南オーストラリア州に設置した大規模蓄電池の機器
テスラが豪州南オーストラリア州に設置した大規模蓄電池の機器
蓄電池施設としては大規模ですが、地域のグリッドから考えればその容量はごく小さいため、当初はその効果を疑問視する声が(揶揄する声すら)少なくありませんでした。しかし蓋を開けてみると、この施設は電力市場に衝撃を与えるに充分なものだと分かりました。これは、9千万オーストラリア・ドル(1ドル(AUD)=83円ほどなので、日本円に換算するとおよそ74億2千万円)を投資した南オーストラリア政府にとっては朗報でした。と言うのも、ここ数ヶ月間で電力料金(FCAS価格)が安くなったのはSA州だけでしたから。このように、ガス・カルテルが膨らませた電力価格の「上昇バブル」をテスラの大規模蓄電池が見事に潰してみせた事実が明らかにしてしまったのは、グリッドの総容量に対してごく小さな容量の蓄電池でさえ、すぐに応用可能な新技術と組み合わされれば、電力市場の諸問題を解決して市場力学を大きく変えてしまう能力・可能性を持っている、という現実でした。
HPRの2018年1~3月の平均的日常充放電を示したグラフ。上側は放電(グリッドへ売電)で、下側は充電(グリッドから買電)をそれぞれ示す。赤い線は電力価格を示し、上に行くほど高値。
HPRの2018年1~3月の平均的日常充放電を示したグラフ。上側は放電(グリッドへ売電)で、下側は充電(グリッドから買電)をそれぞれ示す。赤い線は電力価格を示し、上に行くほど高値。
このチャートは、同じサイト”RenewEconomy.com.au”に5月23日に掲載された別の記事の中のものですが、これはHPR(Hornsdale Power Reserve、=テスラの大規模蓄電池)の「Q1(1月から3月までの期間で夏に相当)」の平均的な1日のデータを示しています。チャート左下のLoadと書いてある塊はHPRが充電(電力を購入)した量、右上のGenerationの塊が放電(電力を売却)した量を示しています。上の「赤い線」はMWh当たりの電力単価を表していて、午後遅い時間のピークでは400AUD/MWh(33.2円/kWh)にも達しています。つまり、普段の4倍近い高値になっている時間帯に、安い時間帯に買って(現時点では併設の風力発電機からの再生可能エネルギーを利用)貯めておいた電気を効率よく売った、ということになります。2016年の暴風雨による大規模停電で大きな混乱をきたしたSA州がHPRの風力発電所に隣接して大規模蓄電池を設置した当初の目的は、再生可能エネルギーによる発電を増やす中で「グリッドを安定させる」ことでした。連邦政府などからはSA州の再生可能エネルギー導入が大規模停電の大きな要因だった、と批判する動きも少なくありませんでした。(石炭などを大量に算出する豪州ならではのしがらみもあるのでしょう。)ところが蓋を開けてみたら、大規模蓄電池は「かなり儲かってしまった」のでした。
じつは、テスラの今回の大規模蓄電池は、これ以上のことをしてしまったようです。それは、電力市場のマーケット・オペレーターと投資家がグリッドをどう考えるかを劇的に変化させ、彼らの資産価値が正当に評価されるように法整備が行われるような方向に、電力とその関連経済を向けてしまったようです。
ガスと電気の供給を統括する「オーストラリア・エネルギー市場オペレーター(AEMO)」は、大規模蓄電池の能力を高く評価しています。これまでのどのタイプの発電施設よりも、はるかに「迅速」に、かつ「正確」に電力を供給できるからです。現在はグリッドが大規模停電に陥るのを回避するための「第一防衛線」として大規模蓄電池は用いられているに過ぎませんが、この迅速な給電能力をきちんと評価する「新たな法(新しいルール)」の整備も必要であるとAEMOは考えています。
van Gendt氏の指摘の通り、新しいルールと、給電の迅速さと正確さ重きを置く市場は、今後数ヶ月から数年の間にグリッドに接続される予定のいくつもの電力関連施設にとっては、無視できないものとなることでしょう。直近では、SA州のWattle Point風力発電所(2018年6月中に接続予定)とLincoln Gap風力発電所、それにヴィクトリア州で進められている3つの別のプロジェクトがそうした対象になるでしょう。
テスラの電気エネルギー部門の地域担当マネージャーLara Olsen氏は、AEWの中でさらに以下のように述べています。テスラの大規模蓄電池がSA州のグリッドに貢献した事実はさらに、電力関連市場における従来の「入札」慣習に対する衝撃としてとらえることもできる、というのです。
これは主に火力発電所を意識した発言でしょう。火力では「燃料コスト(fuel cost)」と「運転と維持管理のコスト(O&Mコスト: operation and maintenance cost)」が市場の入札を決定づけます。ところが再生可能エネルギーではそもそも燃料コストがありませんし、O&Mコストも非常に安く済みます。また、蓄電池の劣化はゆっくりと時間をかけて進みます。そうなると、入札に関しては、「チャンスがあるかどうか(opportunity cost)」だけの問題となることでしょう。「今から5分の間に10MWを入札すると(10MWをグリッドに売ると)、高値が得られるかな?」や、「今は『待ち』で、1時間後に入札するとより高値が得られるかな?」と言った具合です。
グリッドに「電気を売る(放電する:discharge)」だけでなく、グリッドから「電気を買う(充電する:charge)」ことに関しても、同様のことが言えます。「今は(大規模蓄電池に)充電するのは待っておいて、たとえ再生可能エネルギーによる電気を買えない時間帯だとしても、より電気が安くなるのを待つべきだろうか?」といったことが起こることでしょう。
大規模蓄電池が電気をグリッドに供給することは「放電(discharge)」だけでなく「発電(generate)」ととらえることができます。逆に、グリッドから電気を受けることは「充電(charge)」だけでなく「貯める(load)」行為とも考えられます。こうした観点から、大規模蓄電池は「発電施設」と「蓄電施設」という2つのとらえ方で把握する、つまり別の施設として登録するようなことも必要になってくるかも知れません。
こうした「多用途性(versatility)」が、放充電の迅速性と相俟って、従来の発電所よりはるかに多くの入札を可能にすることでしょう。テスラの指摘するように、従来の発電所運営会社が燃料価格の市場動向を見ながら安いときに燃料を買いつけるような「悠長な動き」に比べて、ソフトウェアで自動的に0.2秒(200ミリセコンド)という短時間で最も有利な瞬間に「売り・買い」ができる大規模蓄電池は、資産を有効活用するという観点からも、発電を取り巻く環境・視点を根底から変えてしまったようです。
(文・箱守知己)